日馬富士の引退、果たしてこれでよかったのか


 大相撲の横綱日馬富士が、同じモンゴル出身の平幕貴ノ岩への暴行についての責任を取り引退した。「貴ノ岩関にけがをさせたことに対し、横綱の責任を感じ」「横綱としてやってはいけないことをやった」と引退の理由を語った。もとより暴行は許されない行為で、厳しく責任が問われるのは当然である。横綱審議委員会は、厳しい処分を求める見解を示していた。

暴行問題の責任取る

 日馬富士が引退に追い込まれたのは愚行の代償で致し方ないとも言えるが、もう少し別の責任の取り方をさせてもよかったのでは、と心ならずの引退を惜しむファンも少なくなかろう。

 発覚から2週間。問題は複雑ではなかった。まず暴行事実の有無。あったのならば、全容解明と加害者や責任者らの処分、角界挙げての再発防止への取り組みを速やかに行うことが求められた。暴行は日馬富士が認めたが、全容解明はスムーズに進まなかった。そのためにさまざまな情報が交錯し、マスコミ報道の過熱を招いて混乱に拍車を掛けたのである。

 この問題では、日本相撲協会の組織的一体感の見られない統治能力を欠く実情が露呈した。全容解明がなかなか進まなかったのは、貴ノ岩からの事情聴取が、師匠の貴乃花親方の協力を得られないため、できていないことが大きい。親方が早い段階で警察に被害届を出したことは間違っていない。

 だが、親方は協会の理事で巡業部長の要職にありながら、事件について協会へ報告をしなかったばかりか、その後の協会の再三にわたる問い合わせなどにも不誠実な対応をするなど不可解な行動を取っていることには疑問を抱かざるを得ない。横綱審議委などが不快感を表していることも重く受け止める必要がある。暴行問題の根絶とは別に、協会は「内紛」まがいの深刻な状況に対して国技への信頼を揺るがす事態という危機感を持って立て直しを図るべきである。

 協会は先月末、元検事をトップとする危機管理委員会による中間報告を公表した。明らかになったのは、鳥取での食事会(10月25日夜)の1次会で横綱白鵬が貴ノ岩の休場力士に対する粗暴な言動を諫(いさ)めたこと。この時は日馬富士がかばって収めたが、会場を変えた2次会でも白鵬が「お世話になった先生方の恩を忘れないように」と説くのにスマートフォンをいじっていた。その態度に謝罪を求めて平手打ちしたが、にらみ返してきたことで暴行に及んだという。

 もとより暴力が許されるわけはない。それでも事件が角界の悪弊「いじめ」の類ではなかったことに、いささかの救いを覚えるファンもいよう。日馬富士が会見で「後輩の礼儀と礼節がなっていない時に、それを正すのは先輩の義務」と述べたこととの整合性は認められる。

 協会は拙速だったのでは

 それだけに協会の引退届の受理は拙速だったのではないか。事件の全容がはっきりした段階で、暴力の度合いや理由を厳密かつ慎重に吟味して処分を決めても遅くはなかったはずだ。スピードを身上に全身全霊で土俵に打ち込んだ好漢が消えたことは悲しい。