南海トラフ地震、事前避難を被害軽減に生かせ


 中央防災会議の作業部会が、南海トラフ巨大地震について「確度の高い予測はできない」として、地震予知を前提とした現在の対策を見直すよう求める報告書案をまとめた。

正確な予知は困難と指摘

 南海トラフ巨大地震は、静岡県から宮崎県沖の日向灘にかけての南海トラフと呼ばれるプレート境界で起こると想定されている。

 内閣府は、マグニチュード(M)9クラスの地震が発生した場合、全国で最大32万人が死亡すると推計。全壊・焼失する建物は238万棟で、経済被害は220兆円に達すると試算している。日本の存立が脅かされるほどの甚大な被害であり、その軽減は大きな課題だ。

 報告書案は、駿河湾周辺を震源とする東海地震の予知が前提の大規模地震対策特別措置法(大震法)の防災対策を「改める必要がある」と明記した。1978年制定の大震法は、地殻変動など観測データの異常を基に首相が警戒宣言を出し、鉄道の運行や銀行の業務を一部停止させるなどの強い規制で被害軽減を図るためのものだ。

 しかし阪神大震災や東日本大震災の教訓から、現在では地震の正確な予知は難しいとの意見が強まっている。報告書案が、科学的な知見を基に、地震の発生場所や時期などを高い確度で予知するのは困難と指摘し、対策見直しを求めたのは妥当だと言える。

 また報告書案は、南海トラフ地域の半分でM8クラスの地震が発生するなどの四つのケースを「典型的な異常現象」として分類。こうした現象の発生直後に、まだ被害が出ていない地域にも広く事前避難を促すよう求めている。

 南海トラフでは、過去にも一部がずれ動いて大きな地震が起き、その後隣接する領域で巨大地震が発生したケースがある。1944年には紀伊半島東部沖で「昭和東南海地震」が起き、2年後にはその西側の和歌山県・潮岬沖で「昭和南海地震」が発生。1854年には東海道沖で「安政東海地震」が起き、32時間後にその西側の紀伊半島から四国沖で「安政南海地震」が発生している。その意味で、報告書案が事前避難を提案したのは理解できる。

 ただ、このような避難は「空振り」に終わる恐れがあり、社会生活の混乱も予想される。沿岸自治体や住民の理解を得るには、政府が避難の場所や期間、情報発信の方法などについて具体的なガイドラインを示す必要がある。

 報告書案は、対応が遅れている南海トラフの西側地域での観測の強化や防災対策の必要性を掲げた。南海トラフでは今後30年以内に60~70%の確率で大地震が起こるとされており、対応を急がなければならない。

住民も日頃からの備えを

 作業部会は近く最終報告書をまとめる。政府はこれをもとに、自治体や企業などの意見を聞きながら具体的な防災対応を決める方針だ。

 政府や自治体はもちろん、住民一人ひとりができる限り被害を軽減できるよう、食料の備蓄や避難経路の確認など日頃から備える必要がある。