北方領土交渉、ロシアの出方を見極めよ
ロシアのシュワロフ第1副首相は、安倍晋三首相のロシア訪問が4月になるとの見通しを示した。
安倍首相は北方領土問題の解決に強い意欲を見せ、ロシアとの経済協力にも積極的だ。しかし、ロシアは領土問題に関して厳しい姿勢を崩していない。ロシアの出方を十分に見極める必要がある。
安倍首相が4月に訪露
シュワロフ氏はモスクワでの世耕弘成経済産業相との会談で安倍首相の訪露に言及した。首相は今年前半にロシアを訪れる意向を示していた。会談では、昨年5月の日露首脳会談で首相が提示した8項目の経済・民生協力案について、具体化を進める方針で一致した。
世耕氏はシュワロフ氏をはじめ、マトビエンコ上院議長やマントゥロフ産業貿易相、ノバク・エネルギー相らと相次いで会談して意見を交換した。年初にもかかわらず、主要経済閣僚がそろって世耕氏との会談に応じたことは、ロシア側の対日経済協力への関心の高さを示すものだと言えよう。
首相は北方領土問題解決に強い決意で臨んでいる。領土問題の前進には「首脳間の信頼関係が不可欠」と見定め、ロシアのプーチン大統領と会談を重ねてきた。昨年12月には、プーチン氏を自身の地元である山口県長門市に招いて会談を行った。会談では、日露双方の法的立場を害さない形で北方四島での共同経済活動に関する協議を始めることで合意した。こうした活動を通じて、北方四島の帰属問題解決につなげる狙いがある。
だが、ロシアは共同経済活動に自国の法律を適用する立場を崩していない。仮にロシア寄りの制度になれば、主権がロシアにあることを日本が追認したと解釈される可能性がある。
プーチン氏は首脳会談の際に「共同経済活動を実現することで平和条約締結に向けた信頼が醸成される」と述べた。一方、平和条約締結後の色丹、歯舞2島引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言に触れ、「どのような形で引き渡すか明確には定義されていない」と語り、日本側を牽制(けんせい)した。
しかし北方四島は日本固有の領土であり、現在はロシアが不法に占拠していることは紛れもない事実だ。日本は何としても4島返還を実現しなければならない。
プーチン氏の発言には、日本から経済協力を引き出す一方、領土問題はうやむやにする狙いが見て取れる。首相はロシアの出方を十分に見極めながら、交渉を進める必要がある。
ロシア軍は昨年11月、北方領土の国後島と択捉島に最新鋭の地対艦ミサイルを配備したと明らかにし、北方領土を極東の軍事的要衝として位置付ける姿勢を鮮明にした。プーチン氏はアジア太平洋地域への関与強化を表明しており、ロシアにとって太平洋への出入り口となる北方領土周辺の重要度は増しているのが現状だ。
返還をあきらめるな
北方領土交渉には大きな困難が伴うが、領土返還を決してあきらめてはならない。首相は領土問題解決に粘り強く取り組む必要がある。