相模原19人殺害、凶行は防げなかったのか


 相模原市の知的障害者施設に刃物を持った男が侵入し、入所者ら19人が刺殺され、26人が重軽傷を負った。

 刃物による殺傷事件としては犠牲者の数で戦後最悪だ。あまりの残虐さに言葉も出ない。

 入院時に大麻の陽性反応

 殺害された19人の入所者全員には、首を中心とした上半身に多数の刃物傷があった。元同施設職員だった男の強い殺意を示すものだ。逮捕された男は「障害者なんていなくなればいい」という趣旨の供述をしている。遺族には「心から謝罪したい」と話す一方、死傷した入所者への謝罪の言葉はないという。

植松聖容疑者

横浜地検から捜査本部のある神奈川県警津久井署に戻った植松聖容疑者(左)=27日午後7時半、相模原市緑区

 横浜地検へ入る車内で、男は周囲の報道陣に笑いかけるような表情を浮かべた。心の闇の深さを感じさせる。障害者への差別感情があったようだが、なぜこのような凶行にエスカレートしたのか。動機の徹底解明が求められよう。

 もっとも、兆候がなかったわけではない。男は2月、2度にわたって東京都千代田区の衆院議長公邸を訪れ、議長宛ての手紙を預けた。障害者を殺害すると予告する内容で、障害者の安楽死を可能にしたいとも記されていた。

 同月には勤務していた同施設で「重度障害者を殺す」と話したため、緊急措置入院となり、施設を退職扱いとなった。措置入院とは自傷や他害の恐れがある人に行われるもので、この際の検査で大麻の陽性反応も確認された。

 しかし大麻の陽性反応や診断結果について、相模原市は神奈川県警に伝えていなかった。関係機関が連携していれば、凶行を防げた可能性もあるのではないか。

 その後の診察で入院の必要性は消失したとされ、男は3月初めに退院した。この判断が適切だったのか、そして退院後の対応が十分だったのかも検証する必要がある。

 措置入院が長期間となった場合、人権侵害につながる恐れも指摘されている。かつて精神科の閉鎖病棟で患者への暴行など不祥事が多発したこともあり、患者の人権尊重と社会復帰が強調されるようになった。

 だが、措置入院が犯罪防止につながらなかったのは今回だけではない。2001年6月に大阪府池田市の大阪教育大付属池田小で児童8人が殺害された事件でも、宅間守・元死刑囚は措置入院の解除後に事件を起こしている。

 恐怖と苦痛の中で亡くなった犠牲者や、心身に深い傷を負った被害者のことを考えれば、措置入院の制度をもっと有効に機能させる必要がある。現在は事件を起こしていない人の場合、措置入院の解除後に治療を強制する仕組みはなく、薬を飲まなくなって症状が再発することもある。退院後の対応について、きちんと検討すべきだ。

 施設は防犯意識向上を

 一方、障害者施設の側が防犯意識を高めることも重要だ。これまで施設では、内部での虐待防止などは重視してきたが、外部からの襲撃は想定外だったという。

 監視カメラやセンサー、警備会社への自動通報システムの導入などの対策が求められる。