大西さん宇宙へ、日本にしかできない貢献を
国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在する日本人宇宙飛行士の大西卓哉さん(40)ら3人を乗せたロシアのソユーズ宇宙船は、カザフスタン・バイコヌール宇宙基地からの打ち上げに成功した。9日にISSにドッキングする。大西さんは10月下旬まで約4カ月間滞在し、さまざまな実験などを行う。
全日空の元パイロット
ISSで日本は実験棟「きぼう」や無人補給船「こうのとり」で重要な役割を担っている。大西さんには「日本にしかできない」貢献をさらに積み上げ、民間利用拡大の方途を見いだしていってほしい。
大西さんはISSに10月下旬まで滞在し、「きぼう」ではマウスの飼育を通じた加齢現象の基礎データを収集したり、たんぱく質の結晶生成実験などを行ったりする。
特にマウス飼育実験では、骨量減少や筋萎縮、免疫低下などの加齢現象が微小重力環境下では地上に比べ10~30倍の速さで進行するため、その加速的な変化が観察できる。こうした変化の発生現象の解明を進めることで、宇宙での創薬研究に生かすことが期待されている。
大西さんは全日本空輸の元パイロット。2009年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士候補に、日本人として前回ISSに長期滞在した油井亀美也さんらと同時期に選抜され、初飛行が今回の長期滞在となった。
大西さんは打ち上げ前の会見で、「きぼう」での活動や「こうのとり」の打ち上げについて「日本にしかできない」と意義を強調。「日本の夢や希望を背負って飛べたら」と抱負を語っている。
事実、ISS計画では「日本にしかできない」ことが少なくない。ISSで唯一、「きぼう」がエアロックとロボットアームを併せ持つ。大西さんが実施する超小型衛星の放出ができるのも「きぼう」だけである。材料の曝露実験など「きぼう」にしかできない船外利用も少なくないのである。
また現在、ISSのバッテリーを輸送できるのは「こうのとり」だけで、日本はISSの根幹を支える役割を担っている。今年度に打ち上げ予定の「こうのとり」6号機では日本製のリチウムイオン電池を使用した新型バッテリーを輸送し交換作業が行われる。
これらは日本が誇っていい活動である。24年までの運用延長が決まったISSで、今後も国際的なプレゼンスを高めるとともに、問われる費用対効果の向上へ「きぼう」の民間利用の拡大を積極的に図りたい。
有人利用を見据えよ
ISSをはじめとする国際協力による宇宙探査は、昨年改定された宇宙基本計画でも、外交や安全保障面から高く評価されている。
前回の油井さん、そして今回の大西さんと2人ともパイロット出身であるのは、将来の有人飛行と無関係ではないだろう。「こうのとり」はISS接続後に飛行士が中に立ち入ることができ、有人宇宙船に相当する安全性を有しているからである。将来を見据えた経験、知見、技術の蓄積を重ねたい。