裁判員に声掛け、裁判所は安全確保策強化を
特定危険指定暴力団「工藤会」(北九州市)系組幹部の裁判員裁判をめぐり、不審な男2人が裁判員に「よろしく」などと声を掛けた問題は、裁判員の安全確保という課題を裁判所に突き付けた。
元暴力団員が「よろしく」
裁判で被告の工藤会系組幹部は、日本刀で男性を突き刺したとして殺人未遂罪に問われている。5月10日に初公判があり、同12日に検察側が懲役8年を求刑し結審。同16日に判決が言い渡される予定だったが、声掛けが発覚し、福岡地裁小倉支部は判決期日を取り消した。
裁判員法は、裁判員への請託(依頼)や威迫(脅迫)を禁じている。2009年5月の制度開始以降、威迫などが原因とされる判決期日取り消しは初めてとみられる。小倉支部は裁判員法違反容疑で2人に対する告発状を福岡県警に提出した。2人のうち1人は元工藤会系組員とされる。
2人は閉廷後、小倉支部を出た複数の裁判員に「よろしく」「顔を覚えてますからね」などと声を掛けたという。直接的な依頼や脅迫とは言えないが、裁判員が圧力を受けたことは確かだろう。判決を歪めかねない行為であり、福岡県警には徹底的な事実解明が求められる。
工藤会は、企業や市民への襲撃を繰り返す恐れがあるとして全国で唯一、特定危険指定暴力団に指定されている。今回の問題で、6人の裁判員のうち4人が辞任を申し立て、小倉支部は解任を決定した。
裁判員を選び直すかどうかや、この裁判を裁判員裁判の対象から除外するかなど今後の進行は未定だ。新たな判決期日も決まっていない。
裁判員裁判の対象事件では、裁判員らに危害が及ぶ恐れが強い場合、例外的に裁判官だけで審理することもできる。工藤会関係者が被告の事件のうち、すでに5件が裁判員裁判から除外された。ただ今回の事件に関しては、検察側が「組織性が低い」として除外請求を行っていなかった。こうした判断の是非も問われよう。
裁判員制度は、重大な刑事事件の判決に国民の感覚を反映させるために始まった。その意味では、暴力団絡みの事件から裁判員を一律に除外するのは適切とは言えないだろう。
制度開始に当たり、各地裁は裁判員の移動経路を一般来庁者から分離するなどの対策を講じた。しかし、小さな地裁では人の出入りが少ないため、声掛けまでは防げない。
裁判員の辞退率は年々上昇しており、今年は65%に上っている。制度を継続させるためにも、裁判所は警備の徹底を図るなど裁判員の安全確保策を強化する必要がある。
排除の機運を高めよ
山口組と神戸山口組の対立抗争も続いている。暴力団によって一般市民が危害を受けることは、決して許されない。今回の問題を機に、暴力団排除の機運を一層高めていくべきだ。
工藤会のある北九州市では、暴力団からの離脱者を雇用した事業者を、建設工事の競争入札参加資格の審査で優遇する取り組みを始めた。離脱の環境整備も進めていきたい。