トンネル崩落、老朽化対策に教訓生かせ
山梨県の中央自動車道笹子トンネルで2012年12月、天井板が崩落し9人が死亡した事故で、犠牲者5人の遺族がトンネルを管理する中日本高速道路(名古屋市)などに損害賠償を求めた訴訟で、横浜地裁は計約4億4300万円の支払いを命じる判決を下した。
事故の教訓をトンネルをはじめとするインフラの老朽化対策に生かさなければならない。
損害賠償命じる判決
事故では、コンクリート製の天井板約270枚(1枚1・2~1・4㌧)が約138㍍にわたってV字状に崩落、走行中の車3台が下敷きとなって2台が炎上し、男女9人が死亡、女性2人が負傷した。判決によると、トンネル最上部に天井板のつり金具を固定しているボルトについて、中日本高速は12年間にわたって、ハンマーでたたいて状態を探る「打音検査」や足場を使った「近接目視」などをしていなかった。
市村弘裁判長は、事故後の緊急点検で1000本を超えるボルトの緩みが発見されたことから、打音検査に関して「崩落箇所で実施されていれば同様の結果が得られた可能性が高い」と指摘。完成から35年が経過し老朽化していた設備に対し「適切な点検をしていれば不具合を発見し、天井板が崩落する危険性は予見できた」と判断した。
山梨県警も業務上過失致死傷容疑で捜査している。中日本高速は判決を重く受け止め、再発防止と安全性の向上に全力を挙げる必要がある。
国土交通省が13年6月に公表した事故調査報告書では、中日本高速の点検が不十分だったことに加え、完成当初からボルトの一部で荷重耐久力が不足していた可能性などを指摘した。国交省によると、笹子トンネルと同じように天井板がつり下げられ、ボルトを接着剤で固定しているトンネルは事故当時、全国に16本あったが、このうち12本ですでに撤去された。来年2月までにさらに2本で撤去が予定されている。
事故を受け、国交省はインフラの老朽化対策を強化した。道路法が改正され、14年7月から全ての橋やトンネルなどで5年に1度の目視点検が義務付けられている。
初年度の14年度は全国の橋の9%、トンネルの13%で点検を終え、都道府県や市町村が管理する橋の16%に問題が見つかった。特に損傷や腐食が激しく緊急措置が必要な橋は、国と自治体管理分を合わせて109カ所に上った。
高度経済成長期に集中的に整備された道路などのインフラは現在、一斉に更新の時期を迎えている。もっとも、財政力が乏しい自治体には補修のための財源や人材をいかに確保するかという課題がある。
悲惨な事故を繰り返すな
市町村が管理する中で安全面に問題のある橋では、通行止めなどの応急措置で対応しているのが実態となっている。国交省は専門的な技術を持つ職員の派遣や財政的な支援を行っているが、全国のインフラの安全性向上に向けた取り組みを着実に進めてほしい。
悲惨な事故が繰り返されることがあってはならない。
(12月23日付社説)