治安のカギ握る「家族再生」
今年の世相を表す漢字に「安」が選ばれたが、私たちの暮らしの安全・安心はどうだったか。2015年版犯罪白書によると、刑法犯の認知件数は02年をピークに減り、14年は02年の半分以下だった。一方で再犯者の割合が過去最高、高齢者の犯罪も増加の一途をたどり、子供が被害に遭う性犯罪も多発している。安全・安心への課題は多い。
過去の白書が事例紹介
刑法犯の認知件数は1996年から毎年、戦後最多を記録し、02年には約370万件に達した。このため国は03年を「治安回復元年」と位置付け、官民挙げて犯罪防止に取り組んできた。それ以降、減少に転じ、14年は刑法犯の過半数を占める窃盗が大幅に減って02年の半分以下の約176万件となった。
だが、手放しで喜べない。第一に、再犯者が検挙者のほぼ半分(47・1%)を占めていることだ。再犯者の割合は97年から上昇し続け、過去最高を記録した。第二に、検挙者のほぼ5人に1人が65歳以上の高齢者だ。この比率も過去最高で、検挙人数は95年の約4倍に達する。
第三に、性犯罪が一向に減少に転じないことだ。強制わいせつの検挙件数は過去最多の4300件に上り、再犯率も高い。痴漢は44%、盗撮は36%が再犯(過去8年間)で、性犯罪の被害者のほぼ半数が未成年者だ。ストーカー犯罪やサイバー犯罪も増え続けている。
これらの問題解決が安全・安心な暮らしに欠かせない。想起したいのは、過去の白書が「家族」が再犯防止のカギを握っていると指摘していたことだ。
09年版白書は家族が同居していた場合、再犯率が半減するとし、面会に来た子供に会って「これ以上家族を裏切って泣かせたくない」といった更生事例を紹介した。11年版白書は、少年院に家族が面会に来た回数が2回以上で再犯率が下がったとのデータを提示した。
また万引きの年代別再犯率で最も高かった65歳以上の女性を分析し、近親者の病気や死去、家族との疎遠など「家族の絆」の喪失が再犯を招く大きな要因と指摘した。
こうした事例からも明らかなように再犯や高齢者犯罪を防ぐには家族の力が不可欠だ。司法だけでなく、福祉とも連携し、官民挙げて家族再生に取り組む必要がある。
性犯罪について今年の白書は「再犯防止プログラム」受講者の再犯率が受講しない満期出所者より低かったとして、短期入所者の教育も重視するとしている。もとより教育は重要だが、それだけでは防止できないケースが少なからずある。
法制審議会は被害者の告訴を不要とする「非親告罪化」を検討している。加害者のGPS(全地球測位システム)装着や薬物治療も視野に入れるべきだ。
凶悪犯罪許さぬ姿勢を
凶悪犯罪は断じて許さない。そういう強い姿勢が治安回復の原動力であることも忘れてはならない。先週、裁判員裁判での死刑囚に初の刑執行がなされたが、犯行に情状酌量の余地がなければ、最高刑で臨むのは被害者感情から見ても当然だ。
その上で家族再生をもって安全・安心な社会を築くべきだ。
(12月21日付社説)