厚木騒音訴訟、自衛隊の活動に支障来すな


 米軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地(神奈川県大和、綾瀬両市)の周辺住民が、国に航空機の夜間・早朝の飛行差し止めや損害賠償などを求めた第4次騒音訴訟の控訴審で、東京高裁の斎藤隆裁判長は午後10時~午前6時の自衛隊機の飛行差し止めを認める判決を下した。

 一審横浜地裁判決に続くものだが、自衛隊の活動に支障を来しかねず、疑問が残る。

夜間早朝の飛行差し止め

 厚木基地には海自の哨戒機や救難飛行艇などが配備され、24時間態勢で不審な船舶の監視や海難事故の救助、離島からの救急搬送などを行っている。日本の全領海をカバーしており、沖縄県・尖閣諸島などの離島が占領された場合、奪還作戦の拠点となることも想定されている。

 判決では過去の騒音被害とともに、将来分の被害に対する総額約94億円の賠償を命じた。基地騒音訴訟で将来分の賠償を認めたのは初めてだ。

 差し止めについて、斎藤裁判長は「住民の睡眠妨害の程度は深刻で、賠償のみでは損害を回復できない」と指摘。「住民に与える被害は運航の目的に対して過大で違法だ」と判断した上で、米軍空母艦載機が2017年ごろに岩国基地(山口県)に移転することが見込まれるとして、差し止めの期限を16年末に定めた。

 もちろん、騒音を放置することは許されない。第1次訴訟は約40年前の1976年に提訴されたが、被害が一向に軽減しないことが今回の判決の背景にはあろう。

 しかし、厚木基地では夜間早朝の自衛隊機の離着陸はすでに自主規制されている。昨年度の離着陸は53回にすぎない。

 判決でも「必要性、緊急性がある場合など、客観的にやむを得ない理由に基づく運航」は対象外だ。

 騒音は主に米軍機によるもので、判決でもそのように指摘している。だが米軍機の差し止めは一審と同様に認められておらず、自衛隊機だけではあまり意味がない。

 自衛隊制服組トップの河野克俊統合幕僚長は、判決が確定した場合に「(自衛隊機の)運用に大きな支障が出る可能性はある」と懸念を示した。警戒監視や救難活動など自衛隊の活動に悪影響を与える事態は避ける必要がある。

 東京高裁が差し止めを認めたことで、同様の訴えが全国で起こされることも考えられる。自衛隊はこれまで地元と協議を重ねて自主規制を続けてきたが、今回のような判決が全国で下されれば、これまでの努力が無駄になる。

 何よりも特定のイデオロギーに基づく反基地闘争に利用されることが懸念される。

被害の軽減に努めよ

 中谷元・防衛相は「一部でも差し止めの判断は受け入れ難い」と述べ、最高裁への上告を検討する方針を表明した。国民の生命と財産を守る安全保障関連の問題について、司法府は慎重な判断を下すべきだ。一方、基地の騒音対策を講じる必要もある。厚木基地に関しても米軍機の岩国移転の実現はもちろん、これまで以上の努力と工夫が求められる。

(8月1日付社説)