米軍事戦略、同盟国と連携し抑止力高めよ


 米軍制服組トップのデンプシー統合参謀本部議長が公表した「国家軍事戦略」は、世界の安全保障環境は激変したとの認識の下、とりわけ中国とロシアを「世界の安全保障を脅かす国」として名指しし、警戒感を示している。米国は日本などの同盟国と連携して抑止力を高めるべきだ。

 中露への警戒感示す

 国家軍事戦略は、統合参謀本部議長が適時、戦略環境の展望と米軍の対処方針を示す文書。昨年の「4年ごとの国防計画見直し(QDR)」や、今年2月に発表された「国家安全保障戦略」の具体的な運用方針を定めたものと位置付けられる。

 戦略では過去10年、テロ組織などの掃討に注力してきたものの、今後は「国家主体の挑戦に、これまで以上に注意を払う必要がある」と指摘し、ロシア、イラン、北朝鮮、中国の4カ国について「国際秩序の主要な部分を変えようと試み、米国の国家安全保障を脅かす行動をしている」と述べた。

 ウクライナに軍事介入したロシアについては「目的達成のために軍事力行使をいとわない」とした上で「ロシアの軍事力は地域の安全を、直接的に、またはさまざまパワーを通じて損なっている」と非難した。ロシアは近隣諸国の主権を尊重しない国との認識である。

 国際法上の根拠を示さずに、南シナ海ほぼ全域に及ぶ領有権を主張する中国については「アジア太平洋地域で緊張を高めている」と言明し、「憂慮」を示した前回11年の戦略より批判的なものとなった。今回は「脅威」と位置付けたのだ。

 南シナ海での岩礁埋め立て、人工島建設を通じて存在感を高めようとしている点に言及し、中国軍に「国際的な海上交通路(シーレーン)にまたがった兵力の配置を許す」と警戒感をあらわにしている。

 中国は軍事力を増強し続けているが、米国には劣勢で、太刀打ちできるどころの状態ではない。だが、旧ソ連のように中国が米国に立ち向かえる軍事力を持ったとすれば、事態は変わり得る。南シナ海での中国の行動を受けて、米国の指導層も中国観を従来のトラブルメーカーから「脅威」に変え出したと言えよう。このほか戦略では、イラン・北朝鮮について、核・ミサイル開発が継続していることなどに警告を発した。

 今後の方針に関しては、アジア太平洋に戦略の重心を移す「リバランス(再均衡)」の推進、日本をはじめとする同盟各国との関係強化や各国部隊との相互運用性向上、軍事技術開発への投資をうたった。同盟、さらには多国間の枠組みによる対応の重視である。

 「米国と同盟・友好国とのネットワークは、世界の安全と安定の礎となるたぐいまれな強さがある」とし、「集団的な軍事力」を高めることなどで「侵略を抑止する」と強調した。

 強い指導力が必要だ

 安全保障上の脅威への対処において、各国との協調を基盤とすることは重要であるが、多国間の枠組みを重視するのであれば、軍事力を背景とした米国の強いリーダーシップがますます求められる。

(7月8日付社説)