首相は国民に安保法案の丁寧な説明を
安倍晋三首相(自民党総裁)は党首討論で、集団的自衛権行使を認める安全保障関連法案について「憲法の範囲内」と強調した。法案をめぐっては、衆院憲法審査会で参考人の憲法学者3人が「憲法違反」と断じて以降、反対の声が強まっている。首相は法案の内容や必要性について丁寧に説明すべきだ。
民主代表が「違憲」と批判
首相は民主党の岡田克也代表との討論の中で、安保法案を「合憲」とする根拠として「必要な自衛のための措置」を許容した1959年の最高裁砂川事件判決に言及。その後の政府見解で、集団的自衛権は必要最小限度を超えると判断されたが、首相は「『必要な自衛の措置』がどこまで含まれるのかは、常に国際状況を見ながら判断しなければいけない」と述べ、安保情勢の変化を踏まえて解釈を変更したと説明した。
適切な発言だ。中国の強引な海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発によって日本を取り巻く安保環境は悪化している。こうした中、政府が昨年7月、集団的自衛権の行使容認を閣議決定したのは、抑止力を高める上で当然のことだ。
集団的自衛権に関する従来の政府見解は「保持するが行使できない」というものだった。だが、日米安保条約には両国が集団的自衛権を有していると明記されている。それにもかかわらず、日本が行使しなければ日米同盟は危機に瀕するだろう。
安保法案について政府が野党側に示した見解では、必要最小限度の範囲で自衛権の発動は認められるとした72年の政府見解を引用しながら「従前の憲法解釈との論理的整合性が十分保たれている」と結論付けた。
一方、岡田代表は討論の中で法案を「憲法違反だ」と批判した。民主党は「安倍政権が進める集団的自衛権の行使は容認しない」との見解をまとめているが、行使そのものの是非には踏み込んでいない。この点が曖昧(あいまい)なまま政権批判をするのは無責任極まる。これでは、かつての政権運営で失った信頼を取り戻すことはできまい。
野党は安保法案を廃案に追い込む構えを示し、一部メディアも「戦争法案」「違憲法案」と徹底批判している。自民党推薦を含む3人の憲法学者が「違憲」と指摘したこともあって、こうした動きに弾みが付いているようだ。
しかし、法案が成立すれば日本が「戦争に巻き込まれる」などの批判は的外れだ。むしろ抑止力の向上で戦争を防ぐことが法案の狙いだと言えよう。
60年の日米安保条約改定の際は大規模な反対運動が展開されたが、日米安保体制によって日本は平和を維持することができた。国連平和維持活動(PKO)法案の審議でも、当時の社会党など野党が「軍国主義の再来」として強硬に反対した。だが、PKOでは自衛隊が国際社会から高い評価を受けている。
今国会で成立させよ
ただメディア各社の世論調査では、安保法案が国民の理解を十分に得られていない現状が浮き彫りとなっている。政府・与党は今国会で法案を成立させるために、国民に十分な説明を行うべきだ。
(6月18日付社説)