覚醒剤逮捕、芸能界に蔓延の体質ないか
「またか」と、思わずつぶやいた読者が少なくないのではないか。人気男性デュオ「CHAGE and ASKA」のASKA容疑者=本名・宮崎重明=らが覚せい剤取締法違反(所持)容疑で逮捕された事件のことだ。本人は容疑を否認しているというが、尿検査での陽性反応に加え、自宅からは物証も複数押収されている。使用容疑での立件も時間の問題だろう。
数知れない芸能人の乱用
今回の事件は彼個人の精神的な弱さだけでなく、芸能界が薬物で汚染されている実態を改めて浮き彫りにした。これをきっかけに、業界を挙げて薬物の一掃に取り組むべきである、
薬物は精神に及ぼす作用から、気分を高める興奮系、興奮を抑える抑制系、幻などを発生させる幻覚系に分けられるが、興奮系の覚醒剤は特に危険度が高い。中毒性が強いことから、再犯率は6割に達している。
ASKA容疑者は1990年代にミリオンヒットを連発し、日本ポップス界のスーパースターの地位に上り詰めた。しかし近年はヒット曲がなく、2009年から活動を休止し、昨年1月に活動再開を発表していた。
今回の逮捕については、ファンの大きな期待を背負うプレッシャーがあったのではないか、との見方がある。だが、違法薬物に手を出すことに弁解の余地はない。これまでの自らの業績だけでなく、ファンの夢や希望をも破壊するものである。法的責任はもとより社会的責任も問われる重大な違法行為である。
芸能人の覚醒剤事件で、記憶に新しいのは09年に女優の酒井法子さんが逮捕されたことだろう。日本を代表する清純派タレントとして、海外でも人気が高かっただけに、衝撃は国内外に及んだ。その翌年には、人気バンド・JAYWALKの元メンバー中村耕一さんが所持で逮捕された。大麻、合成麻薬MDMAなども含めれば、芸能人の薬物乱用事件は数え切れない。
大人に今更説教するのも情けないが、芸能人はもっと自身の影響力の大きさと、社会への責任の重さを自覚すべきだ。ドル箱の売れっ子を甘やかし、増長させてしまう業界の体質にも問題があろう。猛省を促したい。
違法薬物乱用はその行為自体が犯罪だが、さらに恐ろしいのは購入資金を得るため、売春や窃盗などの犯罪を引き起こすことだ。今月17日に東京都八王子市で、無職の男(22)が歩道を歩いていた高齢女性の持っていたバッグをひったくる事件があったが、動機は脱法ハーブを買う金欲しさだった。薬物蔓延(まんえん)は社会破壊につながるのである。
これほど危険な犯罪であるにもかかわらず、有名芸能人だけでなく、小学校の校長や警察官ら、社会的な責任が重く、影響力の強い立場の人間による覚醒剤事件が続いていることは看過できない。背景には、外国からの流入の増加がある。
大量流入に対策強化を
警察庁が押収した覚醒剤の量は昨年、過去3番目に多かった。大量に入り込んだ分、国内の末端価格は下がる傾向にあるが、それでも中国の7倍以上の高値を維持する。「末端価格の高い日本が狙われている」(警察庁)のだ。対策の強化が求められる。
(5月20付社説)