研究不正問題、法整備も視野に再発防止を


 製薬会社ノバルティスファーマ(東京)社員が、東大が中心となった白血病治療薬の臨床研究に不適切に関与した問題で、社外調査委員会(委員長・原田国男元東京高裁判事)の報告書がまとまり、その中で社員が立案から学会発表まで多岐にわたって関与していたことが明らかになった。わが国の新薬開発の勢いをそぎかねない不祥事だ。

副作用報告ない例も

 研究は東大などのチームが2年前に開始。慢性骨髄性白血病患者の治療薬を同社の「タシグナ」に切り替えた際、副作用が減るかどうかをアンケート調査していた。

 報告書によると、東大担当の営業社員らはアンケート回収作業の中で、患者2人に重い副作用が出たことを把握しながら、薬事法で定められた厚生労働省への報告をしなかったほか、報道などで問題が発覚することを恐れ、社員が資料を処分するなど証拠隠滅を図った。また医師の名を使い、東大以外の施設に研究の進展を知らせるメールを毎月送るなどしたが、医師は了承していたという。

 またある病院で、担当社員が評価用紙に手書きで副作用の重さを記入しており、医師が行うべき重さの判断を代行した疑惑も浮上した。その点について本人と医師は代筆にすぎないと否定し、調査委は「代行は認定できない」と判断した。

 研究データの改竄(かいざん)も認められなかったが、会見で原田委員長は「製薬会社丸抱えの研究と言っても過言ではない。(販売)シェアを確保するのが目的だった」と断じた。

 ノ社には以前にも、京都府立医大などが手掛けた高血圧治療薬の臨床研究に社員が関わり、データを操作する不祥事があった。今回、田村憲久厚労相は「薬事法違反があれば、行政処分を含めて対応しなければならない」と指摘した。ノ社の企業体質にメスを入れ、膿を徹底的に出さなければならない。

 さらに田村厚労相は再発防止のため、臨床研究に関する法整備に言及し、4月に検討会を立ち上げ秋までに結論を出す考えを示した。消費者に納得できる規制が必要だ。

 一方、同社の不祥事が広く産学連携を萎縮させるものにならないか懸念される。食品、薬品などの安全性の追求に今日、大学や研究機関などの専門分野の研究者らの協力が欠かせなくなっている。

 また新薬に関しては治験を進める中で、重要な技術が育っていく可能性もある。その意味で、大学は積極的に協力すべき立場だ。

時代要請に合う規制を

 日本医学会がまとめた産学連携による企業と研究者の関係についての指針では、関連企業などから多額の報酬や助成金を得ている研究者は、企業と消費者の間で利益相反状態となることが予想されるが、そのことを社会に対して適正かつ明確に開示することが大切だとしている。またそのような臨床研究が、正当なものとして社会的に容認される環境をつくっていくことも挙げている。

 時代の要請に合った医師や技術者らの前向きな職業倫理の確立が重要だ。

(4月6日付社説)