米中高官協議 中国との妥協の余地はない


 中国の天津を訪問したシャーマン米国務副長官が、米中関係担当の謝鋒外務次官や王毅国務委員兼外相と相次ぎ会談した。バイデン米政権発足後、米外交当局高官の訪中は初めてだ。

 共産主義回帰を明言

 シャーマン氏は会談で、香港での民主派勢力への弾圧や新疆ウイグル自治区でのジェノサイド(集団虐殺)などの人権問題のほか、米国に対するサイバー攻撃、台湾、東・南シナ海での中国の行動に懸念を表明。中国が新型コロナウイルスの起源解明に向けた世界保健機関(WHO)の追加調査を拒否している問題でも改めて懸念を示した。

 中国の習近平国家主席は、今月初めに開かれた中国共産党創立100年の記念式典で「台湾問題の解決と祖国の完全統一実現は党の歴史的任務だ」と演説し、台湾統一の実現に強い意欲を表明した。中国による台湾侵攻への警戒感が強まっている。

 香港の高度な自治を保障する「一国二制度」を骨抜きにする統制強化や、少数民族の独自の文化や信仰を否定する政策も断じて容認できない。中国は昨年6月、香港立法会(議会)の審議なしに国家安全維持法を施行し、多くの民主派が逮捕されている。ウイグルでは100万人以上のウイグル人が収容所に入れられ、思想教育などが行われているという。

 ただ、シャーマン氏は「中国との衝突は求めない」とも強調した。気候変動、北朝鮮、イラン、アフガニスタン、ミャンマーなどの問題では米中協力の重要性に言及。10月のイタリアでの20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせた首脳会談の可能性も探ったとみられる。

 バイデン大統領が就任する前から、中国が気候変動などの問題で協力する見返りに、米国が安全保障や人権などで中国に譲歩するのではないかと不安視されていた。バイデン政権内で、中国との協調志向の強いケリー大統領特使が気候変動問題を担当していることも気掛かりだ。

 安全保障の面でも、中国の急速な軍拡で米中の軍事バランスが大きく揺らいでいるにもかかわらず、バイデン政権下で米国の国防予算は実質削減されている。中国による台湾侵攻への抑止力を損なうことがあってはなるまい。

 習氏は記念式典で「中国共産党はマルクス主義の基本原理を堅持し、21世紀のマルクス主義の発展を継続していく」と強調した。これまでは「中国式社会主義」という表現を用いていたが、共産主義への回帰を明言した格好だ。

 中国との妥協の余地はない。米国をはじめとする民主主義陣営は、自由、人権、法の支配などの普遍的価値を何よりも重視し、共産党一党独裁体制の中国を経済のデカップリング(分断)や抑止力強化などで封じ込めなければならない。

 日本は自主防衛力向上を

 今回の協議で取り上げられた台湾や東・南シナ海の問題は、日本の安全保障にも重大な影響を及ぼす。

 日本は米国との連携を強化するとともに、自主防衛力の向上にも努める必要がある。このためには防衛費を大幅に増やすことも求められる。