自衛隊災害派遣、新たなルールの明確化急げ


 東日本大震災から間もなく10年となる。この間も大規模な地震や風水害が次々とわが国土を襲い、被災者の救助や地域の復興に自衛隊が派遣されてきた。

 自衛隊は「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛する」ことを「主たる任務」(自衛隊法第3条)とする実力組織だが、このほか治安出動や海上警備行動などと並び「災害派遣」業務が「従たる任務」の一つと定められているからだ(自衛隊法第83条)。

 少子化で隊員確保困難に

 税金泥棒や憲法違反の組織などと批判され、またイデオロギーからその必要性自体を否定する論調も強い中、自衛隊は黙々と災害派遣任務に取り組んできた。昭和34年9月の伊勢湾台風では延べ63万人の自衛官が動員され、昭和60年8月に日航ジャンボ機が墜落した群馬県・御巣鷹山でも活躍した。

 こうした献身的な活動で自衛隊に対する国民の支持や評価は高まり、今や日本社会に完全に定着した。自衛隊の地道な努力や自衛官の流した汗が勝ち取った誇るべき成果である。

 世論調査(平成30年3月、内閣府)によれば、自衛隊に「関心がある」と答えた人は全体の約68%に上る。関心を寄せる項目は、国防という主たる任務(32%)を抑えて「国民生活に密接な関わりを持つ」大規模災害などへの対応(42%)が最も高い。自衛隊に期待する役割も「災害派遣」(79%)が「国の安全の確保」(61%)を上回った。

 国民のこのような意識を根拠に、また反自衛隊の立場から、自衛隊を解体し災害救助に特化した組織への改編を説く者もいる。しかし、国防という自衛隊本来の役割を軽視することがあってはならない。侵略対処の活動についても国民の理解を深めるため、政府による広報活動の充実が求められる。学校教育の場などで、自衛隊の任務や役割を正しく教えることも必要だ。

 地球環境の異変に加え、地震の活動期に入った日本では、今後も大規模災害の発生が予測され、自衛隊に派遣要請が出される場面も増えるだろう。他方、北朝鮮や中国の脅威の増大、国際貢献活動で任務や活動範囲が拡大する半面、少子化の影響で隊員の確保が困難になるなど余力が乏しくなっている。

 何でも「自衛隊任せ」の姿勢を慎むとともに、自衛隊はどこまで災害派遣活動に関わるべきなのか、さらに民間の能力をもっと活(い)かせないか(官民連携の可能性)など、防災庁構想も絡め、災害派遣活動の在るべき姿やルールの明確化について幅広い検討を急ぐ必要がある。被災を局限化させ社会・民生の安定を保つことも国家の安全保障にとって重要な課題である。

 震災での経験を活かせ

 東日本大震災に当たって自衛隊は10万人の救援態勢を敷き、統合任務部隊の編成や予備自衛官の招集、日米調整所の設置など史上初の活動も相次いだ。種々の経験を十分に検証し、新たな発災や防衛政策に活かす体制作りも不可欠だ。災害対処のための大規模な部隊展開も有事対処と同様、文民統制や国家の危機管理能力、さらに政治指導者の資質が問われる場であることを忘れてはならない。