自殺対策 安全網の強化、拡充に注力を


 新型コロナウイルス禍で社会生活が変化する中、国内の自殺者が増加傾向に転じたことや、中でも女性の自殺増加が顕著なことが懸念されている。

7月から増加に転じる

 日本の年間自殺者数は約3万4000人を数えた平成15(2003)年をピークに減少傾向となった。特に2万169人と統計を開始した昭和53(1978)年以降で最少となった昨年までは、10年連続で減少を記録してきた。今年も1~6月の自殺者数は昨年同期比で約10%減少していた。

 それが7月は昨年同月より25人多い1818人と増加に転じ、8月は同251人(約15%)増の1854人(警察庁まとめ)とはね上がった。特に、女性が同約40%増の650人と急増しているのが気掛かりである。

 最近の自殺者増は、今年に入ってからのコロナ禍が大きく影響していることは間違いあるまい。厚生労働省によると、コロナ禍の影響で解雇や雇い止めで仕事を失った人は6万人を超え、約20日で1万人増と増加ペースも速まっている。資金繰り悪化で廃業や倒産に追い込まれる中小企業や店舗も増えている。

 政府は雇用の維持に全力を挙げてほしい。同時に苦境にある中小企業者などへのきめ細かな支援策を行うべきである。「Go To トラベル」や「Go To イート」に続く大胆な景気浮揚策を打ち出し、社会の活性化につなげてもらいたい。

 女性の自殺増加の原因については、専門家からは生活経済や家庭環境の変化、ストレスなど精神面の問題が指摘される。コロナ禍が直撃し深刻な対面サービス業や観光業などでは女性が約6割を占める。これらの職種では非正規雇用が多く、景気悪化で不利な立場に追い込まれる懸念がある。母子世帯など脆弱(ぜいじゃく)な生活基盤の女性も少なくないだけに、目配りが求められる。

 精神面では夫の在宅勤務や保育園の休園などによる家事や育児の負担増、外出控え、買い物の制限などでストレスが増え、その発散も難しくなっている現実がある。家庭内暴力の増加なども指摘される。コロナ禍が長期化すれば、閉塞(へいそく)感がさらに深まることも憂慮されるのである。

 厚労省はホームページで「こころの健康相談」や「自殺対策のSNS相談」への連絡を呼び掛けている。住民と身近で接する地方自治体の役割も大きい。市区町村の社会福祉協議会は、収入の減った世帯に無利子貸し付けを行っている。支えが必要な人の命を守れるセーフティーネット(安全網)の拡充、強化も必要で、政府、自治体、民間団体の連携強化も求められる。

対面回避に問題はないか

 一方、今日の社会状況の根本的問題があることを考えてみたい。コロナ禍の社会で、今こそ血の通(かよ)ったコミュニケーションが必要な時はない。なのに人との対面を避ける傾向が強くなり、無機質のコミュニケーションがその代替をしていることの是非である。テレワークを盛んに推奨していることも、それに拍車を掛けている。

 こうした現状について、人間生活で本当に問題がないか、改めてその折り合いを考えてみる必要があるのではなかろうか。