機密情報不正取得 スパイ活動への警戒強化を


 在日ロシア通商代表部の職員に唆され、勤務先企業の営業秘密を不正に取得したとして、警視庁公安部は不正競争防止法違反の疑いで通信大手ソフトバンクの元社員を逮捕した。

 ロシアをはじめとする外国のスパイ活動への警戒を強めなければならない。

情報提供者を引き継ぎか

 元社員は昨年2月、不正な利益を得るため同社サーバーにアクセスし、電話基地局に関する社外秘の作業手順書など2点を取得した疑いが持たれている。通商代表部の外交官から繰り返し接待を受けて「ロシアのスパイかもしれないと思っていた」と供述している。

 捜査関係者によると、外交官は2017年に来日。逮捕の禁止などウィーン条約で保障された外交特権を持っているが、通商代表部の肩書や外交官としての身分は明かしていなかったという。

 この外交官の来日する前は、別の通商代表部の職員が元社員に接触していた。職員は元社員を情報提供者として外交官に引き継いだ疑いがある。職員は既に帰国しているが、警視庁は職員と外交官の2人に出頭を要請した。

 ソフトバンクは「持ち出された文書は機密性が低い」としているが、機密情報が外部に流出したことは深刻に受け止めなければならない。これを機に、特に軍事転用可能な技術を持つ企業などには、情報管理体制の総点検とともに社員が外国のスパイ活動に巻き込まれないための教育も求められよう。

 ロシアは旧ソ連時代から各国の外交、軍事情報を狙った諜報(ちょうほう)活動を展開している。ソ連崩壊後も、00年9月には在日ロシア大使館付武官に秘密文書を渡したとして、現職の海上自衛隊3等海佐の男が自衛隊法違反容疑で逮捕された。

 民間企業では05年10月、東芝の子会社の元社員が戦闘機などにも転用可能な半導体関連の機密情報を通商代表部員に漏洩(ろうえい)し、現金100万円を受け取ったとして、警視庁が背任容疑で2人を書類送検した。06年8月には、ニコンの元研究員が軍事転用可能な光通信機器を持ち出し、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の情報機関員とみられる通商代表部員に渡したとして窃盗容疑で書類送検された。

 14年3月のウクライナ南部クリミア半島併合で、米国や欧州からハイテク機器の輸入を禁じる経済制裁を受けたロシアは、旧西側諸国の企業が保有する先端技術などの情報収集を強化しているという。日本では、外交官などとして身分を隠した多数のロシア情報機関員が活動しているとされ、今回の事件の2人もそうだと考えられている。これ以上、外国のスパイを暗躍させるわけにはいかない。

防止法の制定を急げ

 国家の機密情報に関しては、安倍政権が13年12月、特定秘密保護法を成立させた。漏洩した公務員、民間人は最高10年の懲役を科される。だが、スパイ活動を取り締まるにはスパイ罪を創設しなければならない。国家の安全を脅かすスパイに対しては、どの国も死刑を含む厳罰で臨んでいる。政府はスパイ防止法の制定を急ぐべきだ。