ここ一番のルーティーン W杯から日常まで効果的
心のトレーニング技法
今秋のラグビーW杯での日本チームのこれまでにない活躍ぶりや五郎丸歩選手らの活躍が日本を沸かせ世界からも大いに注目され、同時にメンタルコーチの存在も注目を集めた。
スポーツの世界でしばしば使われる「心技体」ということばがある。心と技と体は互いに影響しあっており、そのどれもが最高の状態で協調し合う三位一体状態で最高のパフォーマンスが発揮されるととらえられている。したがって、アスリートはこれらのトレーニングをバランスよく行うことが必要であるが、体や技のトレーニングに比べて、心のトレーニングとは何をするのか、どのような効果があるのか等が十分に理解されておらず、後回しにされがちであった。
日本におけるメンタル面のトレーニングの研究は、前の東京オリンピックを契機として、あがり現象の解明や対策からさかんになり、主に欧米で進められていたパフォーマンスアップのためのトレーニングや日本古来の武道の精神修行方法なども取り入れられて発展してきた。
2001年からは日本スポーツ心理学会が認定するスポーツメンタルトレーニング指導士資格制度がスタートし、現在では有資格者は全国で130名ほどとなった。スポーツ心理学の学術的知識がベースにあり、研究から得られた知見をスポーツ現場に還元することのできるスペシャリストたちであり、全国に散らばってオリンピック選手やトップアスリートをはじめとして、学校の部活動やスポーツ少年団あるいは個人アスリート等を対象にメンタルトレーニングを行い、メンタル面をサポートする縁の下の力持ちともいえるような地道な活動を行っている。
このメンタルトレーニングとは、「スポーツメンタルトレーニング教本」(大修館書店2008年)によると、「スポーツ選手や指導者が競技力向上のために必要な心理的スキルを獲得し、実際に活用できるようになることを目的とする、心理学やスポーツ心理学の理論と技法に基づく計画的で教育的な活動」である。
すなわち、選手がここ一番の大事な場面で自分にとっての最高のパフォーマンスを発揮できるように、自分自身をコントロールする心のトレーニングを常日頃から行って身につけておくことが大切なのである。選手に常日頃からスポーツメンタルトレーニングで指導する心理的スキルとして、自己分析、目標設定、ピークパフォーマンス分析、リラクセーションスキルトレーニング、イメージトレーニング、集中力向上、心理的コンディショニング等がある。競技種目やポジションやトレーニング期間や試合時期や選手のパーソナリティ等の条件によって、身につける順序や重点を工夫するのである。
ラグビーの五郎丸選手で話題になったルーティーンは、自己コントロールの技法の一つである。プレーの直前に、ある一定のパターン化された動作を常に行うことで、緊迫した場面であっても、普段通りの動作を行うことで情動が安定するとともに不必要な筋緊張を解除し、プレーの確実性に繋げるものである。
緊張や不安の場面で
スポーツ場面に限らず、人は緊張したり不安や焦りがあると、自律神経の交感神経が興奮して、落ち着いて行動することが困難な状態となりがちである。重要な行動を行う際のルーティーンを決めて習慣化することで、いざという場面で的確な行動がとれる。
メンタルトレーニングの技法の習得は日常生活での重要場面で適切に行動できるだけでなく、全人的成長にも貢献すると考えられることから、良好な人間関係ももたらしてくれるであろう。日頃の生活の中にもぜひ取り入れたいものである。