大型MICE施設、集客・採算性・工期完成に疑問
東海岸地区に決定、リゾート性低く開発進まず
沖縄県は先月末、2020年に供用開始予定の2万人規模のビジネスイベンツ=MICE(マイス)(注)=施設を沖縄本島東南部の与那原(よなばる)町と西原(にしはら)町にまたがるマリンタウン東浜(あがりはま)地区に建設することを決めた。「県土の均衡ある発展」を大義名分としているが、ホテルや商業施設に乏しく観光地としての魅力が少ない同地区のMICEが十分な集客や採算性が見込めるか、供用開始が間に合うのかなど、不透明な部分が多い。(那覇支局・豊田 剛)
知事選の論功行賞の色合い濃く
中城(なかぐすく)湾のマリンタウン地区は1996年度から埋め立てが始まり、埋め立て総面積は142㌶と皇居に相当する広さ。現在は大型商業施設と住宅地、人工ビーチが整備されている。
中でも、MICE建設予定地はマリンタウン地区内のホテル用地としての活用が想定されていた県・町有地約13・9㌶。ホテルや企業の誘致が進まず広大な空き地となっている。
県の選定基準として、①那覇空港滑走路増設に合わせて20年度の供用が可能なこと②将来的な周辺施設の立地可能性③東海岸地域の経済振興による県土の均衡ある発展④道路整備に伴い那覇空港からの交通利便性の向上が見込まれること――が挙げられた。
宜野湾市には沖縄県唯一のMICE施設「沖縄コンベンションセンター」がある。ただ、昨年、国内外の企業・バイヤー計361社が参加した商談会「沖縄大交易会」は収容人数が制限された上、出展ブースの手狭さが問題になり、大型MICEの早期建設の必要性が改めて確認された。
県は新たなMICE候補地としてマリンタウン地区と沖縄本島南西部の豊見城(とみぐすく)市豊崎地区の2カ所に絞り込んで比較検討を行った。那覇市軍港地区、浦添市西海岸地区、宜野湾市コンベンション地区も名乗りを上げていたが、米軍施設の返還が伴う用地確保から期限内の供用が困難視されていた。
MICE事業は昨年度の着手を目標にしていたが、昨年11月の知事選の影響で判断が先送りされてきた。当初、本命視されていたのは豊崎地区。宜保晴毅(ぎぼはるき)豊見城市長は知事選で仲井真弘多(なかいまひろかず)氏を推薦した。ところが、革新系の翁長雄志氏が当選することで風向きが急変した。
マリンタウン地区には、翁長氏を全面的に支援した金秀(かねひで)グループの大型スーパーやマンションが点在している。立地決定は「知事選の論功行賞」「政治的判断」との批判は免れない。
しかも、平成18年度の企業と県民に対する意識調査では「マリンタウン周辺地域はリゾート性が低く、開発が遅れた地域というイメージが先行している」と厳しい見方が示されていた。
空港と目と鼻の先にある豊崎地区と比べると、マリンタウン地区は交通の便も悪く、周辺には宿泊施設がない。アフターコンベンション機能を果たす娯楽施設や飲食店も少ない。
翁長知事は「(世界遺産の)斎場(せーふぁー)御嶽(うたき)やイオンモール沖縄ライカム、中城湾をつなぐことによって発展が望める」というが、両施設ともに車で30分以上の距離にあり、生活上の接点は少ない。
那覇商工会議所の幹部は、「仲井真前知事は長年、カジノを含む統合リゾートを推進してきた。ところが、翁長知事はカジノに強硬に反対している。会議、見本市だけでは収益率は低い。付随機能がなければ十分な集客も経済波及効果も見込めない」と疑問を投げ掛けた。
自民党県議団は6月上旬、国策としてMICEを推進しているシンガポールを訪れ、3カ所の統合型リゾートを視察した。「シンガポールの統合型リゾートはカジノをはじめあらゆる機能が複合的にあるため成功している。マリンタウンに作るにしても、採算性はどうなのか、誰が責任を持つのか、計画性が乏しい」と花城大輔議員は指摘。翁長政俊議員は「幕張メッセ(千葉)やビッグサイト(東京)に競合できる施設となり得るのだろうか」と疑問を呈した。自民党としては16日から始まる県議会定例会で県政を追及する構えだ。
本年度は事業手法の検討などを行う予定で、公募型プロポーザルの手続きに入り、地質調査も進める。来年度には用地取得や実施設計し、17年度の工事着手を見込む。東京五輪開催、那覇空港第2滑走路が完成する20年までの供用を目指す。
(注) MICEとは、企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字のことであり、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称 (出典・観光庁)