那覇市が「龍柱」建設再開へ、議会は補正予算案を可決
年内完成目指すも不透明
那覇市が沖縄振興特別推進交付金(一括交付金)を活用して建設を進めているモニュメント「龍柱」が昨年度、未完成で中断した問題で、那覇市議会は5月8日、不足している事業費約1億296万円の補正予算案を、賛成多数で可決した。年内の完成を目指すが、構造物の安全性や請負業者の確保など不確定要素が多く、年内完成を困難視する見方が出ている。(那覇支局・豊田 剛)
管理監督責任については謝罪せず
城間市長は無言のまま
那覇市4月議会臨時議会が4月27日から6日間の日程で行われ、最終日8日の採決では賛成24、反対2で可決された。賛成したのは共産、社会、新風会など翁長雄志(おながたけし)知事と城間幹子市長を支持する勢力。一方、自民は「安全性が確保されておらず、採決以前の問題。市長が提案する議案として、受け入れられない」と採決を前に退場。公明も予算案に納得できず退場した。
友好都市・中国福州市との交流のシンボルとしての龍柱建設は2012年に発案された。若狭地区の緑地に高さ約15㍍、幅3㍍の2体を道路を挟んで設置する計画。
同年の議会では予算は1億2400万円で、場所は現在よりも約500㍍市街地に近い松山公園内を予定。柱は1本で高さは3㍍から5㍍を想定し、翌年度中に完成する計画だった。
ところが、13年の議会で事業費2億6700万円に増額され、場所と形状が現在のものになった。当時、追加増額について共産、社民、社会大衆は反対していた。
計画変更後、14年末の完成を予定していたが、資材調達の遅れが原因で今年3月まで延長したものの、龍柱ブロックを積み上げる作業の段階で11段ないし12段中、2段のみ積まれた状態で作業が中断した。
工事が中断した問題で、市議会は4月28日、施工業者を参考人として招致して質疑を行ったが、市当局と業者の主張の決定的な食い違いが明らかになった。
市が「3月24日までに完成させるよう指示した」と主張したのに対し、業者は昨年12月の時点で「期間内の完成は到底無理で7月までの工程表を提出した」と反論。市当局は「人員を増やしてまでも完成させなければならなかった。(業者の主張は)到底認められるものではない」と述べた。
また、会期中、柱にひびが入っているという報告を受け、議員団は現場視察を行った。支柱に通すための龍柱のパーツの穴が歪(ゆが)んでいたため、パーツを修正しなければならなかった事情も明らかになった。
「ひびらしきものが入っており調査中」(建設管理部長)で、まだ原因が明確になっていないにもかかわらず予算採決が行われたことに自公と無所属会派は反発、結果が出るまで採決を待つよう求めていた。
久高将光副市長は「一義的に請負業者の責任」と述べ、業者に違約金を請求する意向。これに対し、業者は市との訴訟を辞さない構えだ。
予算執行をめぐっても市のずさんさが浮き彫りになっている。予算が年度内で執行できず翌年度に繰り越す事故繰越については、市当局独自の判断で内閣府沖縄事務局との調整を怠ったことも議会答弁で明らかになった。さらに、工事を続けて完成させたとしても一括交付金の返還を求められないという保証もない。
予算規模は当初の3倍近い3億3000万円まで最終的に膨れ上がった。そのうち市の一般財源の負担は5000万円から2億3000万円と大幅に増えた。
前泊美紀議員(無所属の会)は、龍柱は一括交付金の趣旨に合わないと指摘した上で「大切な税金である交付金を返還すれば国の福祉に回せる」と反対理由を述べた。3月末に公立学校の交通安全対策補助金が突然、大幅に削減されたのもこの影響とみられる。今後、教育や福祉、インフラなど様々な分野の予算執行でしわ寄せが及ぶことも予想される。
工事の遅れや市の予算負担が膨れ上がったことについて久高副市長は「このような結果に至ったことは誠に残念。遺憾であり迷惑を掛けたことに責任を感じる」と欠席した城間幹子市長に代わって発言、明確な謝罪は避けた。
城間市長は龍柱をめぐる臨時議会では一言も発しなかった。さらに、後半は姿を見せることもなかった。傍聴していた市民からは市長の発言を要求する意見が相次いだ。桑江豊議員(公明)は「守るべきものは市長ではなく市民ではないか」と訴えた。
久高友弘議員(自民)は「龍柱をぜひとも造ってほしいという市民の要望は一度も受けたことがない。市長は単なる義務感だけで完成させようとしている」と述べた。前任者である翁長知事の顔に泥を塗るわけにはいかないのであろう。
補正予算後、市当局は「年内に完成させたい」と言うが、入札する業者が現れるかどうか不明だ。安全性の確保が担保できない限り工事を始めることは事実上不可能で、年内完成という約束もおぼつかない。