久米至聖廟住民訴訟 那覇地裁で口頭弁論が始まる
市の設置許可は政教分離違反
那覇市が那覇市久米2丁目の松山公園の一部を一般社団法人久米崇聖(そうせい)会に無償で貸し出し、久米至聖廟(しせいびょう)の設置を許可したことに対し、那覇市民が那覇市を相手に提訴した住民訴訟の第1回口頭弁論が3日、那覇地裁で開かれた。裁判では、原告側が、久米至聖廟で行われる信仰儀礼は一般の那覇市民になじみが薄く、憲法で定める政教分離に違反することを争点に取り組む意向に対し、被告側は、「儒教は宗教ではなく、学問」と反論する構えだ。(那覇支局・豊田 剛)
原告弁護団「釋奠祭禮は宗教儀式」
被告側は「至聖廟は教養施設」と反論か
那覇市民の有志で構成される「住みよい那覇市をつくる会」の金城テル会長が那覇地裁に訴状を提出してから9カ月、ようやく第1回の口頭弁論が始まった。
原告側は、那覇市が松山公園に孔子廟と明倫堂を含む久米至聖廟の設置を許可したことが憲法で定めた政教分離の原則に違反し、使用料免除措置を無効と主張、那覇市に対して使用料分の約576万円の支払いを求めている。
口頭弁論開始まで長い期間を要した理由として原告代理人の徳永信一弁護士は、翁長雄志(おながたけし)那覇市長(当時)が出馬した昨年11月の県知事選、それに続く衆院選の影響を最小限に抑えるため意図的に遅延させたのではないかと指摘した。
3日の口頭弁論では大きな動きがあった。被告側は、「補助参加人兼訴訟参加人」として久米崇聖会の参加を要求、井上直哉裁判長は受け入れた。久米崇聖会は14世紀に明(中国)から沖縄に渡来した人々とされる久米三十六姓の末裔(まつえい)で構成され、久米至聖廟の管理や祭祀(さいし)を運営している。
被告側の久米崇聖会参加要求について、徳永弁護士は「敗訴して最も困るのは久米崇聖会。那覇市は過去の使用料を久米崇聖会から徴収すれば済むからだ」という背景があり、「これ以上、那覇市には任せられない」との思惑で参加表明したとの見方を示した。
原告弁護団が問題視するのは、儒教の創始者である孔子の誕生日とされる9月28日に孔子廟で催される釋奠(せきてん)祭禮(さいれい)だ。釋奠祭禮は、頭に冠をかぶった祭主・執事らが孔子廟の正門を開いて孔子を迎え、お供え物、お酒をささげた後、上香(焼香に相当)するという流れの儀式。毎年、那覇市長も参加している。
徳永弁護士は、「江戸幕府が国教として儒学を受け入れたが、久米三十六姓が沖縄に持ち込んだ儒教はもっと歴史が古く、同一のものではない」と指摘。「釋奠祭禮はキリスト教のクリスマスのように習俗化したものではなく、日本人になじみがない。宗教儀式にほかならない」と強調した。
「勝訴して祭禮をさせないように追い込みたい」とする原告弁護団は「宗教儀式ができない施設は魂の抜け殻のようなもので、ダメージは大きいはずだ」と強気の姿勢だ。
これに対し、被告弁護団は、那覇市都市計画マスタープラン、那覇市公園条例など27種類の資料を裁判所に提出。次回4月28日に予定されている口頭弁論では、儒教は宗教ではなく学問という観点を主張し、久米至聖廟は那覇市の伝統文化であり教養施設として使用していると反論する見通しだ。さらに、「建築面積の総計が敷地面積の100分の2を超えてはならない」と規定する都市公園法に対する正当性を主張すると予想される。
金城テル会長は、「久米崇聖会という大きな組織を相手取ることとなり、この団体の本質を知らないといけない」と気を引き締めた。
原告側は、同裁判に勝訴することで、久米至聖廟と目と鼻の先に建設中の中国モニュメント「龍柱」に待ったを掛けられればと目論む。市当局によると、「龍柱」は3月末までに完了する予定で、龍柱設置事業の総事業費は2億6700万円。現在、急ピッチで工事が進められ、作業現場には中国で加工された「龍柱」の石材が並べられている。
2月には若狭公民館で「龍柱」建設を含めた「若狭地域のまちづくりを考える」タウンミーティングが開催された。那覇市が進める松山公園整備事業などを市民に知らせるためのものだが、「龍柱」建設の説明不足もあって、「龍柱」が中国皇帝を意味することを知らない参加者が多く、「不要」だという意見が出された。集会に参加した男性は、「集会を開くことで、地元で合意形成されたという既成事実を作りたかったのではないか」と集会の在り方に疑問を呈した。
一方、「つくる会」の金城テルさんは2月、「『龍柱』建設に反対する署名」2万6千筆余を那覇市役所に提出、「龍柱」建設中止を請願した。那覇市が翁長雄志市長時代から行ってきている久米至聖廟への使用料免除措置、「龍柱」設置、そして、松山公園における中国との交流拠点整備事業は、県民の約9割が中国に悪いイメージを抱く(2013年、沖縄県調べ)市民感情と乖離(かいり)したもので、市民の「民意」を無視した形で「ある意図をもって断行されている」(那覇市議会関係者)と見られても仕方ない。