鉄軌道導入へ県民の合意形成
観光・産業発展に必要 県主催でシンポジウム
時速100キロの小型リニア想定
米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設に伴う基地の整理縮小を前提に、内閣府と県はそれぞれ、沖縄本島を縦断する鉄軌道の導入の本格的調査を始めている。こうした中、沖縄県における鉄軌道導入の可能性と経済効果について考える県主催のシンポジウムが23日、那覇市で開かれた。県が主導する形で県民の合意形成を図り、部分開業という形で早めに運営し、県民に鉄軌道を実感してもらうのが必要との意見で参加者は一致した。
(那覇支局・豊田 剛)
沖縄県は県レベルで全国で唯一、鉄軌道がない。そのため、県は「鉄軌道を含む新たな公共交通システム」を沖縄本島に導入し、交通渋滞や中南部地域の居住一極集中といった問題の解決をめざすという青写真を描いている。県は、内閣府の調査結果を踏まえ、鉄軌道導入のための独自調査を行い、このほど調査結果を公表した。それによると、鉄軌道は、(1)均衡した県土構造(2)北部振興(3)移動時間短縮(4)過度な車依存からの脱却(5)観光・産業の活性化――などの観点から県にとって必要性が高いと総括した。
具体的には沖縄本島南部の那覇市と北部の名護市の全長69キロメートルを1時間で結び、交通システムとしては、最高速度100キロでコストパフォーマンスがいい小型リニア鉄道を想定する。整備コスト予算は5600億円。ちなみに、九州新幹線は全長130キロで6290億円を費やした。県は、費用は国が負担し、鉄道会社が運行のみを行う方法であれば、単年度の黒字化は可能だと試算する。
このほど行われた沖縄県企画部交通政策課が主催したシンポジウムの「鉄軌道導入が沖縄にもたらす可能性」と題するパネルディスカッションでは、高良文雄・本部町長、一般財団法人沖縄美ら島財団理事長の池田孝之・琉球大学名誉教授、土井勉・京都大学大学院教授(工学研究科)、古関隆章・東京大学大学院教授(電気工学専攻)がパネリストとして登壇、内閣官房参与の藤井聡京大教授がコーディネーターを務めた。
高良町長は、戦後、過疎化が進む北部地域の振興と生き残りのためにも鉄軌道は絶対に必要で、本部町にある県内最大観光地の美ら海水族館まで延伸してほしいと希望。「鉄軌道計画は県が主導して進めるべきだ」と強く求めた。
池田教授は「鉄軌道整備は那覇空港の滑走路拡張と並ぶ最重要プロジェクト」と位置付け、観光や産業の発展につながるイメージを県民に持たせることが大事になると分析した。
交通政策と地域づくりに詳しい土井教授は「駅ターミナルができることで公共交通を中心とした都市開発が期待できる」と述べ、鉄軌道が観光客ならびに生徒・学生にとって欠かせないものと強調した。
県の鉄軌道計画の技術アドバイザーを務める古関教授は、鉄軌道の安全性や環境負荷の少なさ、コスト面など、鉄軌道の優位性を多角的に論じた。
コーディネーターを務めた藤井教授は「国が予算を出さないなら県民が負担してでも投資すべきだ」と発言。これに対し池田教授は「国の事業としてやるべきで、産業界の支援も必要」と述べた上で「一括交付金2年分でできる」と付け加えた。
車依存は経済発展阻害
藤井聡京大教授の講演要旨
パネルディスカッションに先立ち、国家強靭化を主唱する内閣官房参与の藤井聡京大教授が「沖縄の鉄軌道整備のあり方を見通す」と題して特別講演した。以下は講演要旨。
沖縄県は、徒歩、自転車、バイクを含めた移動手段において自動車を利用する割合(自動車分担率)が86%で、全国平均の66%を大きく上回って日本一だ。東京などの大都市では20%台しかない。極端な車社会のため交通渋滞が多く、自動車の平均速度も14キロとワーストワンで、東京17キロ、大阪16キロよりも遅い。
モノレールは那覇市内の首里城から空港までのアクセスとしての公共交通にすぎない。さらに、バスは、渋滞しているから乗らない。人間は利己的になればなるほど車に乗るようになる。
沖縄県民は、移動による甚大な不利益を被っている。渋滞は、物流コスト面だけでなく将来の繁栄の面からも県民にとって経済的損失を受ける。渋滞による心理的負担に加えて健康被害がある。肥満率が全国ワースト一番の理由は、歩かないことである。重篤な「車依存病」とも言える。
過度な自動車依存により市街地が疲弊する。自動車で買い物に行くのは郊外の大型ショッピングセンター。利益は東京などに吸い上げられ、県全体の経済が縮小する。また、地元で買い物をしなくなるため、商店街の雇用にも大きく影響し、地元経済にとっては大きな損害だ。
沖縄に鉄軌道を造ることで、これまで指摘したことの正反対の現象が起きる。自動車分担率をせめて70%台まで下げれば、県による県民のための県経済が発展する。鉄軌道は将来にわたって沖縄経済を支える基盤になる。