翁長氏が知事就任、普天間移設で政府と対決姿勢強調

埋め立て承認取消「検討」

水面下では政府と妥協模索か

 沖縄県で翁長雄志(おながたけし)新知事が10日誕生した。就任式、記者会見、議会の所信表明のいずれでも米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古沖への移設反対の強い決意を述べた。仲井真弘多(ひろかず)前知事による辺野古の埋め立て承認の取り消し・撤回を「検討する」としながらも、普天間の危険性除去への代案は示していない。政府、自民・公明与党は、辺野古移設を進める方針に変わりはない。このため、移設問題をめぐって政府と妥協を模索しているとの見方も出ている。12日から始まった12月定例議会をどう乗り切るか、新知事の発言が注目される。(那覇支局=竹林春夫・豊田 剛)

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県議会で所信表明する翁長雄志知事=12日、沖縄県議会(那覇市)

 翁長知事は10日、県庁1階の就任式で県職員らを前に演説した。普天間飛行場の辺野古沖への移設反対など基地問題を強調。「選挙戦を思い起こさせる内容」(県職員)だった。

 昨年12月、仲井真弘多前知事が辺野古沿岸の埋め立てを承認したことについて、翁長氏は「あたかも振興策と引き換えたようで、県民の誇りを傷つけた」と批判した。

 就任式に先立ち行われた就任記者会見では、基地問題の取り組みに大半の時間を割いて「公約の実現に全力を傾ける」と述べ、辺野古移設の阻止に向けての決意を改めて語った。

 辺野古移設阻止に向け、辺野古埋め立て承認の取り消し・撤回を公約に当選した翁長氏。会見では、前知事が承認した内容に法的に不備がないかどうか、外部有識者を含めた検証委員会を設置する方針を明らかにし、「専門家の意見を聞きながら知事の権限でどこまで進めていけるか検証していく」と当面は第三者委員会に問題を棚上げした格好だ。

 しかし、仲井真前知事が政府に求めた普天間飛行場の5年以内の運用停止、訓練地の移転など4項目について、「可能なら日本政府の力をお借りしたい」と有利になる条件は譲らない。

 その上、辺野古移設の代替案について翁長氏は「沖縄側が考えるのは理不尽。政府に対応してもらいたい」と知事選の時の内容を踏襲、就任式では「現行計画をこのまま進めることなく、わが国が世界に冠たる民主主義国家であるという姿勢を示してもらいたい」と政府にアピールしたが、日米同盟の意義や2国間条約の重みについては言及しなかった。

 埋め立て承認については、記者会見では「法的瑕疵(かし)があれば取り消しも視野に入れる」という表現にとどまった。また、12日の県議会の所信演説でも「法的瑕疵があった場合は承認の『取り消し』を検討していく」と述べた。瑕疵があれば取り消すと断言していないだけに、「翁長氏はどれだけ本気で反対しているのか見極めが必要だ」(保守系県議)。

 宜野湾市の佐喜真淳市長は、「普天間飛行場の危険性除去のための具体的な計画を示してほしい」と注文。同市長は、承認取り消し・撤回となれば、移設計画が大幅に滞り、「普天間の固定化」の危惧を表明した。

 普天間飛行場をめぐって翁長氏が政府との対決姿勢を強めれば、来年1月に閣議決定される来年度予算の沖縄振興予算に影響が出る可能性は否定できない。一方で、日米両政府の合意通り、辺野古移設計画を阻止できなければ、県民の落胆は大きい。

 地元の防衛関係者によると、仲井真弘多前知事が離任前5日に沖縄防衛局が提出していた埋立工法に関する工法変更申請のうち2件を承認したが、翁長氏側から事前に水面下で前知事に承認をお願いしていた。工法変更申請は、法律上承認基準に適合していれば行政上承認しなければならないことになっており、翁長氏が知事就任早々に変更申請を承認すれば、「公約違反」になりかねないからだ。

 「翁長新知事は、承認の撤回、取り消しが行政手続き上困難であることは十分承知しているが、表立っては言えない。検証委員会を設置し、承認撤回、取り消しに熱心な外部有識者を選定し問題を炙(あぶ)り出して自分の有利な結論を出させる考えで、翁長氏が那覇市長時代にやってきた常套(じょうとう)手段だ」という。

 翁長氏は、副知事には安慶田(あげだ)光男・那覇市議長(66)と浦崎唯昭(いしょう)県議(71)を起用する人事案など県議会に提出、承認された。2人とも翁長氏より年上で翁長氏と関係が深い。両氏は、知事選で翁長氏を応援するにあたり自民党を離党した。「論功行賞」との批判も出ている。

 衆院選では、沖縄の全4区で翁長氏と歩調を合わせ移設計画に反対する候補が全員当選した。「辺野古反対の民意が示された」と政府に対して強い姿勢に出るのは間違いない。しかし、全国的には自公が圧勝した。沖縄県の自民党候補者は全員、比例代表復活した。

 地元ジャーナリストによると、「翁長知事は、辺野古反対議員があまり強く政権に反対すると、経済振興はじめ対沖縄政策に影響が出ることを十分承知している。県内マスコミに対しては、表向きは『辺野古絶対反対』と見せかけて、水面下では政府・与党と妥協点を見いだしてくるのではないか」という。

 また、翁長氏は松山公園の一部を久米崇聖(そうせい)会に無償で貸し出し、久米至聖廟(しせいびょう)の設置を許可した問題、および、市が福祉団体に対し申請額を大幅に超える委託料の支出をした問題の2件で住民から提訴されている。民事被告人である。これ以外にも、市長時代に行われたホテルの売却や那覇市新都心の開発などを巡って、「政治と金」のうわさが絶えない。県政では野党になった自民党県連は、「徹底して翁長知事の政治姿勢を糾(ただ)していく」と疑惑の証拠を集めている。

 「オール沖縄」という県民受けするキャッチフレーズで那覇市長から県知事まで上り詰めた翁長知事。今後、政府との交渉、県政運営を「翁長流」でどう乗り切るのか。