沖縄県、アジアの物流拠点へ機能を強化
ANA国際航空貨物事業開始から5年
2009年10月に全日本空輸(ANA)が那覇空港を拠点(ハブ)とする国際航空貨物事業を開始してから今年で5周年を迎えた。沖縄県は、ANAの物流網を生かし、アジア主要都市への物流拠点としての機能を強化している。製造産業に乏しい沖縄にあって、物流は観光と並ぶリーディング産業としてさらなる発展が期待されている。12月10日に沖縄県知事に就任する翁長雄志(おながたけし)氏がこれまで仲井真弘多(なかいまひろかず)知事が築き上げてきた経済成長路線を継承できるか、手腕が問われる。(那覇支局・豊田 剛)
国内最大規模の食品商談会も
問われる翁長次期知事の手腕
那覇空港から半径4時間圏内の人口は約20億人の巨大市場がある。那覇空港は、成田、関西に次ぐ国内第3位の国際貨物取扱量を誇る国際物流拠点に成長した。ANA沖縄貨物ハブは、国内4地点、海外8地点の合計12都市に就航し、日本とアジアを結ぶ航空物流ネットワークを確立した。
「深夜発、翌早朝着」が可能なのは那覇空港が24時間運用しているからだ。日本やアジアの主要都市を深夜出発、沖縄貨物ハブを経由し、翌早朝には目的地に到着する。
国際貨物ハブ開始に伴い、2012年4月、沖縄振興特別措置法に基づく国際物流拠点産業集積地域(物流特区)制度が整備され、法人税の減免措置などの各種優遇措置がスタートした。
今年6月には、那覇地区、那覇空港地区、那覇港地区とされた国際物流特区が、那覇・豊見城(とみぐすく)・浦添・宜野湾・糸満地区の5市に広がり、東海岸うるま地区についても沖縄市まで拡大された。
10月下旬には、国際物流ハブ5周年シンポジウム(沖縄県主催)が那覇市で開催され、物流に関わる経営者らや県職員らが多数参加。過去5年間の成果や物流拠点としての今後の見通しについて意見交換した。
ANAの貨物事業会社であるANAカーゴの岡田晃社長は、ゼロからのスタートはリスクが大きいとして周辺から反対されたことを明かした。その上で、「沖縄物流ハブ単体では赤字だが、国際貨物事業全体としては黒字」と述べ、県出身の人材も育ったことも踏まえ沖縄への投資は大きなプラスであると強調した。
ANAに続いて、ヤマト運輸は2年前に沖縄に進出し、香港など東南アジア5カ都市向けの国際宅配事業をスタート。13年からは、香港向けに「国際クール宅急便」を開始した。国際間のクール宅配事業は世界初。早くて年内にも、クール宅急便をシンガポールと台湾にも拡大する見通しだ。
梅澤克彦グローバル事業推進部長は、地理的優位性やANAのインフラ、特区制度を利用しながら「日本の安心安全でおいしいものを付加価値を付けて輸出したい」と抱負を述べた。
さらに、昨年8月には、東芝自動機器システムサービスが那覇空港に隣接する国際ロジスティックスセンター内に利用者第1号として入居、「パーツセンター」の運用を開始した。川崎と欧州にあった在庫保管拠点を沖縄に集約し、コスト削減に成功した。滝澤靖司社長は、「1年間で取り扱うパーツは400種から2800種に増え、アジア輸出の拠点になっている」と報告。今後、同社に続く製造業の沖縄進出に期待が掛かっている。
沖縄の優位性はアジアの大都市と近いだけではない。空港から国際コンテナターミナルがある港まで車で10分の近距離。市街地とも近いコンパクトシティーであるため、スピーディーで効率的な物流が実現できる。
さらに、那覇空港の物流センターの賃料は東京湾岸部の約3分の1で済む。物流コストや人件費が安価なのが魅力だ。
ところが、沖縄は単なる荷物の積み替え場所となって、県内企業はハブを活用し切れていない実情がある。那覇港管理組合によると、那覇港では輸出分半分以上が空コンテナだという。石垣牛、アグー豚、マンゴー、琉球ガラスなど県内の特産品をいかにアジア市場に売り込むかが今後の課題だ。
こうした中、27、28の両日、宜野湾市の沖縄コンベンションセンターで国内最大規模の国際食品商談会「第1回沖縄大交易会」(県など主催)が開催され、全国からサプライヤー(出展企業)約200社、国内外からバイヤー約140社が参加する。物流ハブを生かして日本全国からの特産品をアジア展開を促進するチャンスと捉えている。
物流ハブ構想の最終ステージの目玉は、那覇空港滑走路増設だ。仲井真知事は工期の短縮を政府と交渉、東京五輪が開催される20年3月末の完成に向けて準備を進めてきた。しかし、翁長次期知事を支持した共産党、社民党、沖縄社会大衆党は、自衛隊基地の存在を理由に新空港増設に反対している。政府の中には、米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する翁長次期知事の県政に対して新空港増設を予定通り進めるかどうか疑問視する見方もある。新空港増設に積極的に取り組んできた自民党国会議員が総選挙でどの程度議席を確保できるかにも懸かっている。
翁長次期知事が支持政党を説得して那覇空港拡張を推進し、好調な県経済の流れを引き継ぐことができるか、前途多難だ。