特定失踪者 沖縄に30人以上、人口比で全国2位

家族が県に調査協力要請、那覇市で「全国一斉活動集会」

 北京で北朝鮮拉致被害者をめぐる日朝政府間協議が再開されたが、これまで北朝鮮から納得のいく回答が得られていない。こうした中、北朝鮮に拉致された可能性がある沖縄出身の特定失踪者の救済を訴える「『忘れないで、特定失踪者』全国一斉活動沖縄集会」(主催・同実行委員会)が10月5日、那覇市内で開かれた。沖縄県での集会は初めて。特定失踪者の家族らは6日、沖縄県庁で仲井真弘多(ひろかず)知事を訪ね、県による実態把握と調査の協力を求めた。特定失踪者の調査や実態把握が遅れている県や県警に対して被害者家族はいら立ちを隠せずにいる。(那覇支局・豊田 剛)

北朝鮮による拉致の実態周知を求める

「万全な体制取りたい」仲井真知事

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米蔵一正さん(右から2人目)ら特定失踪者の家族3人が登壇した=5日、那覇市の沖縄県立博物館・美術館講堂

 特定失踪者問題調査会によると、特定失踪者はすべての都道府県におり、全国で883人に上る。中でも、沖縄県警管轄の特定失踪者(非公開も含む)は33人で、人口比では石川県に次いで2番目に多い。

 ところが、政府が認定している拉致被害者は全国でわずかに17人。そのうち5人は2002年に帰国を果たした。その翌年、「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」(通称「救う会」)から分離する形で、「特定失踪者問題調査会」が設立された。「北朝鮮による拉致の可能性を完全には排除できない失踪者」の調査を行うことになった。

 県庁の要請行動は、「特定失踪者等の拉致認定を求める会」の藤田隆司会長が沖縄県の特定失踪者の家族2人を率いる形で行われた。藤田さんの兄の進さんは、昭和51年2月、こつ然と姿を消し、後に拉致の疑いが濃厚になった。藤田さんは「特定された失踪者883人は氷山の一角」と述べ、県の全面的な協力を要請した。

 要請団はさらに、北朝鮮による拉致の実態を周知させること、県警による捜査及び発表を強化させることを求めた。

 「沖縄でも北朝鮮による拉致の可能性のある人がいることが驚きで、県としてあらゆる情報を収集し、万全な体制を取りたい」

 5日に那覇市の沖縄県立博物館・美術館で開催された「全国一斉活動沖縄集会」で読み上げられた、仲井真弘多知事からのメッセージだ。

特定失踪者 沖縄に30人以上、人口比で全国2位

特定失踪者の兄、進さんの写真を紹介して救出を訴える藤田隆司さん=5日、那覇市の沖縄県立博物館・美術館講堂

 集会では、基調講演で「兄奪還の戦い」を38年間続けている藤田さんが、「北朝鮮による拉致は50年以上前から実行され、今も進行中」で、「国内の協力者とグルになって看護師や技術者など、北朝鮮が必要とする人材を探している」と北朝鮮の拉致の手口を明らかにした。

 藤田さんは世界50カ国以上を訪問しながら、特定失踪者についての国際的な理解が得られていないことを痛感。藤田さんが何度か国連に実情を訴えた結果、国連人権委員会は昨年8月、訴えを初めて受理した。藤田さんは、「国民の世論と国際包囲網を構築して、拉致被害者全員の救出をめざす」と訴えた。

 藤田さんの報告に続いて、県内の特定失踪者3人の家族が登壇、失踪当時の状況と家族の苦しみを語った。1977年11月24日、フィリピン海域に向かったまま消息を絶った第8協洋丸の乗組員だった米蔵武男さんの弟である一正さんは、「家族は諦めていたが、他の乗組員のことも心配で、自分がパーソナリティーを務めるラジオ番組で、『声を上げなければ解決できない』と訴えてきた」と、これまでの活動を報告した。

 米蔵さんは、失踪問題をめぐる混乱を避けようと家族がいったんは県警の特定失踪者リストから外させたが、北朝鮮による拉致の可能性が高くなったことで、再びリストに載せるよう求めた。「沖縄は特定失踪者に関する発信が一番遅れている。県が積極的に調査してほしい」と米蔵さんは悲痛な訴えをした。

 学生を代表して登壇した琉球大学法文学部4年生の外間完信さんは、日本の拉致被害者が韓国に次いで2番目に多いことについて、「戦後の日本社会が国防を軽視したツケ」で、「スパイ天国となったおかげで国民の生命が危機にさらされている」と危機感を募らせた。

 最後に、集会は決議文で、①拉致問題はすべての県民、国民の問題である②救出に向けて動かすべきは日本政府や国際社会であり、多くの国民の力を結集しなければならない③拉致問題の解決はすべての拉致被害者救出以外にはない――ことを確認。その上で、①県内の特定失踪者の家族を支援するボランティア組織を発足させ、県民・国民運動を展開する②県内の特定失踪者に関する情報提供を呼び掛け、県警の捜査を支援する③日本政府に対し、工作を抑止する法律を早急に制定する――ことなどを全会一致で決議した。