沖縄県知事選、「保革対決」明らかに
仲井真知事、経済界の後押しで3選目指す
翁長雄志那覇市長、「辺野古反対」で革新を味方に
11月16日投開票の県知事選まであと3カ月半余り。自民党県連と地元有力経済界などが擁立する3選を目指す現職の仲井真弘多(ひろかず)知事(74)に対して、自民党県連に反旗を翻した一部の自民党那覇市議団と県政革新野党が相乗りして擁立する那覇市長の翁長(おなが)雄志(たけし)氏(63)が挑戦する「保革対立」の構造が明らかになってきた。第三の勢力として、地域政党そうぞう前代表で前衆院議員の下地幹郎氏(52)が「保革」に割り込む形で出馬表明の動きを見せており、知事選の前哨戦は、複雑な様相を呈してきた。(那覇支局=竹林春夫、豊田 剛)
そうぞう下地前代表も出馬意向
自民党県連(会長・西銘恒三郎衆院議員)は26日、仲井真知事の3選擁立を正式に決定、知事に要請。知事は同日、これを受託、「県民のためにしっかりと知事選に向かっていこうと決意した」と、事実上出馬を表明した。仲井真知事は8月7日に記者会見する予定だ。
「基地問題が解決に向けて一歩前進し、これから『沖縄21世紀ビジョン』実現に向けて国と県が一体化して動こうとしている時に、この流れを逆戻りさせてはならない。仲井真知事しかいない。次の世代のためにも絶対に負けられない選挙だ」
仲井真知事3選を決議した自民党県連幹部はこう語り、2年前に那覇市長4選を果たした後から次期知事選の周到な準備を進めてきたといわれる翁長市長と革新陣営の選挙戦術に強い警戒心を示した。
別の県連幹部によると、仲井真知事は当初、「次の知事選にふさわしい人物を見つけてほしい」と側近に漏らしていた。翁長市長出馬は確実視されていただけに、翁長市長に勝てる人物を探したが、ここ2カ月ほどで「翁長市長ほど知名度がなく、仲井真知事にもう一期お願いするしかない」との結論に達した。
6月8日に宜野湾市民会館で、仲井真知事出席のもとで「仲井真弘多知事に感謝する集会」が約1000人を集めて開かれたのを契機に、同月28日には、那覇市と名護市を除く保守系9市長、それに町村長、議長ら約50人が仲井真知事3選を要請し、仲井真知事3選支持の動きがにわかに強まった。
今月4日に、西銘県連会長らが石破茂幹事長と会談、県連として仲井真知事3選擁立の意向を示したことを受けて、地元有力経済界、保守団体に続いて、自民党青年部、県医師会などが出馬要請に動いた。
石破幹事長が独自の調査で、「仲井真知事で大丈夫か」と難色を示したと伝えられたが、「西銘会長の説明でその件は決着がついた。あとはいかに選挙に勝つかだ」と県連幹部は強調した。
知事は「与党は自民党だけではないからね」と公明党県本部の支持取り付けが出馬条件と見られたが、「公明は、9月7日の市町村選挙までは態度を明確にしない」(県連幹部)との判断で、水面下で公明と協議を進めていくことになった。
一方、翁長陣営は、「次期選挙は、翁長市長で絶対勝てる」と自信満々だ。「革新支持層に一部の自民党支持者、辺野古反対で浮動票が味方になる。それに公明が加わる」との予想だ。
翁長氏は「知事選ありきで準備を進めてきた」(自民党県連幹部)。4期当選後、「基地反対は票になる」との判断で、「米軍新型輸送機オスプレイ反対」「普天間飛行場の返還」「辺野古移設反対」の反基地運動の先頭に立ち、「オール日本」対「オール沖縄」を旗印に「まず、革新陣営を味方に付け、従来の保守も巻き込む戦術に出た」(同)。
翁長氏はもともと県議時代に自民党県連幹事長を務めたことのある「保守の中の保守」(翁長氏)で、「市長になってから市職員組合に対して活動を制限する動きに出て、革新勢力から批判、非難されたことがある」が、「今は『保守の顔をした革新』だ」(那覇市議)。
社民党県連、共産党県委、社会大衆党(社大党)、生活の党県連、県議会会派「県民ネット」の県政野党5団体による野党知事選候補者選考委員会(座長・新里米吉=社民・護憲会派)はかつて、翁長氏と琉球大学大学院教授の高良鉄美氏の2人の名を挙げたが、今月22日までに翁長市長一人に絞り込んだ。「普天間飛行場の辺野古移設反対などの県民行動で主導的役割を果たした翁長氏への支持が多い」のが最終選考の理由。8月11日に正式に要請する予定だ。翁長氏の狙いは的中した。
選考委は、翁長陣営と協定を結ぶ基本合意書について協議、辺野古の「埋め立て承認を撤回する」という文言を「承認撤回を望む県民の声を尊重し、辺野古新基地は造らせない」に修正、25日、環太平洋連携協定(TPP)、消費増税、集団的自衛権の行使容認反対などを盛り込んだ内容の「基本姿勢および組織協定」に合意した。翁長氏が「撤回は事実上できない」と修正を求めたもようだ。
ここで不可解なのは、革新政党の姿勢だ。翁長氏は「日米安保は堅持する」が持論。これまで「日米安保破棄」を主張してきた社民党、社大党、共産党が基本方針を曲げてまで、翁長氏擁立に踏み切ったからだ。一つには、仲井真知事、翁長氏に対抗できる人材が革新陣営にいないこと。連合など一部には前回仲井真知事と戦った伊波洋一・前宜野湾市長擁立の声もあったが、「勝つためには翁長市長しかいない」(革新陣営)実情がある。
だが、革新勢力の中には、「仲井真、翁長の保守分裂の中で、なぜ革新独自の候補者を出して戦わないのか」との声が水面下でくすぶっている。「翁長はもともと保守で、知事になって裏切られるのではないか」というわけだ。翁長氏が基本合意文で、辺野古移設「承認撤回」を拒否したことも革新陣営の一部では不信感を強めている。
翁長氏は今のところ、市長選と同時選挙を考慮して9月2日からの市議会定例議会前後に出馬表明し、議会終了後に辞任する見通しだ。
こうした中、地元政党そうぞう代表を辞任し離党した前衆院議員の下地幹郎氏が31日にも出馬を表明する動きが出てきた。市部経営者らの支持を得ているが、辺野古移設容認を表明しており、革新陣営からの票はあまり期待できない。自民党から除名されており、保守層からどの程度票を集めるか不透明。出馬表明をした後、途中で、仲井真、翁長両陣営のどちらかに回るのではないかとの声もある。