那覇市の「龍柱」建立、県議会でも異論

「中国共産党に服従」の含意

 那覇市が那覇・福州(中国)友好都市交流シンボル事業として計画している「龍柱」の建立に市民から反対する動きが表面化している中、沖縄県議会でも異議が唱えられた。一括交付金約2億6700万円を使って中国皇帝の象徴である「龍柱」を建立することが、一括交付金事業の目的に沿うものか。「龍柱」建立は今や、那覇市から県レベルでの議論、さらには将来の「一括交付金制度の死活問題」にまで波及してきた。(那覇支局・竹林春夫、豊田 剛)

一括交付金の死活問題に

中国人街の再現許さない、市民が緊急集会

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照屋守之議員の一般質問に答弁する仲井真弘多知事(左)と高良倉吉副知事(右)=7月7日、那覇市の県議会議事堂

 「龍柱」建立に疑問を呈したのは、自民党県連幹事長の照屋守之議員。同議員は今月7日、県議会6月定例会の一般質問で、「若狭の通りに15㍍の龍柱が2本建つというが、一括交付金事業の目的に沿う事業なのか。那覇市民の反対が大きいにもかかわらず、建設が進んでいる」と述べた。

 照屋議員は、「那覇市議会でも問題提起された」と指摘した上で、「使い方によっては知事が頑張って獲得した一括交付金にも影響しかねない。さらに、地域住民が(建立計画を)知らないことが問題だ」と、県の対応をただした。

 これに対し、謝花喜一郎県企画部長は、「一括交付金の活用は地域の自主的判断にゆだねられている」と那覇市の立場を一応容認しつつ、「那覇市が目指す観光都市としてのまちづくり(「龍柱」建立)に対する説明を求めたい」と答弁した。

 中国皇帝のシンボルとされる龍と爪の意味合いについて、照屋議員は、「四つの爪は中国の属国・家来になるという意味となるものを、わざわざこの時期に建てる必要があるのか。中国共産党に服従していると宣言しているようなもので、誤解を与える」と訴えた。

 龍の歴史的根拠について答弁を求められた高良倉吉副知事は、「一般的認識」と前置きした上で、「明朝時代では五つの爪は皇帝権力のシンボル、四つの爪は首里城にあるように朝貢国としての意味合いがある」と説明。「琉球王朝は、18世紀中ごろには中国と冊封(さっぽう)関係にあった。現代においてはさまざまな立場があるだろうが、コメントは控える」と答弁し、現代の価値観にはそぐわないことを示唆した。

 照屋議員は続けて、「沖縄には昨年約658万人の観光客が訪れたが、中国大陸からはわずか6万8000人しかいない」と、データを示して観光振興の効果に疑問を呈した上で、「一括交付金の使い道について各市町村で会計監査が入り、(説明不十分な「龍柱」建立が)一括交付金制度の死活問題にもなりかねない」と主張。「11月に予定されている知事選では一括交付金の使い方も争点にすべきだ」と訴えた。

 龍柱について感想を聞かれた仲井真弘多(ひろかず)知事は「いろんな見方があるのだと思った。(照屋)議員の意見は強く印象に残った」と述べ、一括交付金の会計についてチェックする必要性に言及した。

 照屋議員の質問に対し、野党議員から「そんな質問は、那覇市議会でやれ!」「交付金は関係ない」などの野次が飛び、一時、騒然とした。野党議員には、「龍柱」建立の意味がほとんど理解されていない実情が浮き彫りにされた。

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龍柱建設に反対する宣言文を読み上げる金城テルさん(左端)=6月27日、那覇市の沖縄県立博物館・美術館会議室

 一方、那覇市民の中で龍柱建立反対運動の先頭に立つのは同市在住の金城テルさん(87)だ。「住みよい那覇市をつくる会」の代表で、「龍柱建立阻止を求める意見書」を県議会、市町村議会に提出。知人、さらには県外・国外にも郵送している。

 同会は6月27日、「龍柱について考える市民集会」を那覇市で開き、龍柱の建設を憂える那覇市民ら約80人が集まった。

 集会で意見発表した60代の女性は、「安里の蔡温橋に近くの舗装がはがされたかと思うと突然、龍をかたどった醜いサバニ(爬竜船)が置かれていた。総工費は2000万円というが、周りの人々は『邪魔だ』と口をそろえて言っている」と訴えた。続けて、「国際通りの『てんぶす館』に設置された大型スクリーンの両端にも龍柱のデザインがある。観光客のためなのかもしれないが、地元市民をもっと大切にしてほしい」と主張した。

 別の女性は、「沖縄には(遠い海の彼方に神の国があり、幸せがやってくるという)ニライカナイ信仰があり、その祈願の場所が若狭の波上宮にある。予定されている龍柱は、波上宮の近くに建つ予定で、ニライカナイをさえぎることになる。絶対に許されるものではない」と涙ながらに訴えた。

 集会は、「『龍』は中国皇帝のシンボルで、現在は中華人民共和国・共産党のシンボル。沖縄県民は日本民族であり、那覇市に久米村(中国人街)をいまさら再現することを承諾できない」という趣旨の宣言文「『龍柱』を阻止しよう」を金城さんが読み上げ閉幕した。

 金城さんは「日本政府、自民党本部、県知事、那覇市長に宣言文を手渡す。直接会えるまで頑張る」と意気込みを示した。