台湾人戦没者慰霊塔の建立を

「日本台湾平和基金会」 平和祈念公園で慰霊祭

 沖縄戦の戦没者をまつる沖縄県平和祈念公園(糸満市)に台湾人戦没者の慰霊施設を建立する動きが進められている。日本と台湾の友好と平和を願うNPO日本台湾平和基金会は21日、台湾人戦没者慰霊祭を公園内で開催。台湾立法院委員(国会議員)や元軍属らが戦死者を追悼しながら台湾と日本、沖縄の友好を深化させることを誓った。(那覇支局・豊田 剛)

台湾から国会議員ら訪沖団

日・台・沖の友好促進を期待

台湾人戦没者慰霊塔の建立を

固い握手を交わす愛知和男氏(左)と許光輝氏=20日、那覇市

 糸満市摩文仁(まぶに)にある平和祈念公園には、国籍、軍人、民間人の区別なく、先の沖縄戦で犠牲となった国内外20万人余りの戦没者の氏名を刻んだ石碑「平和の礎(いしじ)」が1995年に建てられた。

 それに加え、公園とその周辺には各都道府県の慰霊塔のほかに、韓国の慰霊の塔がある。韓国人の慰霊塔は1975年に建立されたもので、韓国の全道から集められた石が並べられた円墳の立派な慰霊塔だ。これに比べ、台湾出身の戦没者は、わずか34人の名前が「平和の礎」に刻まれているだけだ。

 大東亜戦争末期、約20万人の台湾出身者が日本軍人・軍属として出征し、約3万人が犠牲になったといわれている。国内では2万7千余柱が靖国神社に合祀(ごうし)されている。また、東京都奥多摩には1975年に台湾出身戦没者慰霊碑が民間レベルで建立された。

 台湾人戦没者慰霊施設建立を発案したのは、那覇市在住で台湾出身の許光輝氏。「当時日本人として従軍した台湾人の慰霊塔がないことは非常に残念。生きている人だけでなく、亡くなった人までも差別されることはあってはならない」との思いから3年ほど前から計画を立てた。

 許氏は、日本統治時代の台湾で台湾の農業水利事業に大きな貢献をした八田(はった)與一(よいち)技師の記念公園を開園させた人物。さらには、台湾北部の基隆(キールン)市にある沖縄出身者の漁師らをまつる慰霊碑「琉球ウミンチュの像」の建立を発案し、国内外からの募金を募り、2011年12月1日に建立した。

 台湾人の慰霊塔の建立に向けて機運が高まる中、野党国会議員2人を中心とした台湾訪問団一行は20日、沖縄を訪れた。一行は同日、県議会の自民党会派県議代表と会談した後、県庁で仲井真弘多(ひろかず)知事を表敬訪問した。訪問団によると、会談時間は長くはなかったが、慰霊施設のための用地取得と沖縄戦で犠牲になった台湾出身者についての調査を県と台湾が共同で進めることを知事が約束してくれたという。

 同日夜に那覇市内で開かれた訪問団歓迎会には、東京から愛知和男元防衛庁長官が参席した。台湾とのパイプが太い愛知氏は昨年12月、許氏とともに台湾立法院の王金平立法院長を表敬訪問。東日本大震災への支援の感謝と共に、台湾人戦没者慰霊塔の建立について台湾側の理解と協力を求めた。

 「日本の軍人として命を失った台湾人を慰霊しようという計画に賛同した。日本人としてやり足らないことがまだまだたくさんある」。29年間国会議員を務め7年前に引退した愛知氏はこう話し、基金会の役員として名を連ねるとともに基金会長就任にも前向きな姿勢を示した。

 台湾立法院の葉津玲議員(台湾団結連盟)は、「八田與一公園が完成した時、全台湾民は感激した。今回の台湾人慰霊碑の計画を心から応援したい」と全面的に応援することを約束した。もう一人の周倪安議員(同)は、沖縄戦で台湾の先人が犠牲になった経緯を語るとともに、「慰霊施設の建立に向けて調査が進むことを望む」と慰霊碑建立を契機に台湾と日本、沖縄との友好促進に期待を寄せた。

台湾人戦没者慰霊塔の建立を

台湾人戦没者が刻銘されている碑に献花する葉津玲議員(左)と周倪安議員(右)=21日、糸満市の沖縄県平和祈念公園

 翌日21日には、台湾一行と本土から来た平和基金発起人らとともに台湾人戦没者慰霊祭が摩文仁の平和祈念公園の「平和の礎」刻銘碑と国立沖縄戦没者墓苑で行われた。先の大戦で犠牲になった台湾出身の軍人軍属の御霊を慰めるために献花、黙祷をささげた。慰霊祭の開催は昨年に続いて今年で2回目だ。

 同日夕方、那覇市で第1回日本台湾平和基金会沖縄大会が開催され、「日本・沖縄・台湾の絆を考えよう」と題して台湾出身の評論家の黄文雄氏が講演。大会には、日本・沖縄・台湾の交流促進に関心を持つ約100人が集まった。大会では、基金会の法人化と運営に理解と協力を求めた。

 なお、2012年10月には沖縄県議会で「台湾人戦没者慰霊の塔」の建立に関する陳情が全会一致で採択されている。

 又吉清義県議(自民党会派)は、「県内に数多くある慰霊碑・塔は管理団体が不在のため無縁仏になっている」という現状を嘆き、「建立よりもいかに管理・運営するかということが大事だ」と語り、管理の確約があれば許可されるとの見通しを示した。

 同会は今後、年内をめどに法人化に向けて会員を募り、活動拠点を全国の主要都市に設ける予定である。