翁長雄志那覇市長に2件の住民訴訟が提起

孔子廟設置と福祉政策で

 翁長雄志(おなが・たけし)那覇市長に対する2件の住民訴訟が22日までに那覇地裁に提起された。国から払い下げを受けた市所有地の一部を、久米至誠廟(びょう)(儒教の教祖、孔子を祀(まつ)る孔子廟と明倫堂)を運営する一般社団法人久米崇聖会という特定団体に便宜を図り無償で提供した問題(以下、「孔子廟訴訟」)と、障害者福祉政策における不必要な市の財政出動をした問題(以下、「福祉訴訟」)だ。翁長市長は次期沖縄県知事の革新系候補として取り沙汰されているだけに住民訴訟の影響は避けられそうにない。(那覇支局・豊田 剛)

憲法の政教分離に違反/不必要な市の予算支出

市議会報告会/中国寄り市政に批判の声相次ぐ

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翁長雄志那覇市長

 県庁記者クラブで22日、二つの訴訟の合同記者会見が開かれた。原告の一人は、那覇市在住の金城テルさん(88)。中国寄りの那覇市政に危機感を抱き、「住みよい那覇市をつくる会」を昨年一人で立ち上げた人物で、今では、金城さんの考えに同調する50人ぐらいの仲間がいるという。

 金城さんは開口一番、那覇市が海の玄関口に一括交付金2億6000万円を使って(中国の属国を象徴する)「龍の柱」(龍柱)の建築を予定していることに触れ、「琉球が清国と友好関係にあった時代と今は違う。なぜ、このご時世に、龍柱を作る必要があるのか。龍柱の建設を阻止できるのであれば私が人柱になってもいい」と悲痛な訴えをした。

 龍柱の問題は、金城さんが那覇市長を提訴した孔子廟の問題とは一体の関係にある。龍柱建設予定地と久米至誠廟(孔子廟及び明倫堂)と福州園がある松山公園は目と鼻の先にあり、那覇市はここ一帯を中国との交流促進を進める「久米人(クニンダ)のまちづくり」(中国人街)のエリアに指定しているからだ。

翁長雄志那覇市長に2件の住民訴訟が提起

合同記者会見を開いた金城テルさん(右から2人目)と板谷清隆さん(右から3人目)=22日、県庁記者クラブ(那覇市)

 「孔子廟訴訟」では、那覇市が松山公園の一部の土地を一般社団法人久米崇聖会に無償提供し、久米至誠廟の設置を許可したことが、憲法第20条が規定した政教分離に反するものと主張。年間使用料に相当する約577万円を返還するよう求めた。

 原告代理人の徳永信一弁護士は、「孔子廟は孔子を教祖とする儒教を振興し崇敬する宗教施設であり、市が久米崇聖会による宗教活動の支援に当たっていることは、これを禁じる憲法20条の政教分離の原則に反する」と指摘した。

 また、「福祉訴訟」では、那覇市障害者福祉センターの指定管理を受ける一般社団法人那覇市身体障害者福祉協会(身協)への委託料が年819万円と定められたにもかかわらず、約5倍の4154万円が5年間支払われ続け、しかも、本来国から50%、県から25%補助金が得られる事業にもかかわらず、市だけで補助金を拠出しているとして、那覇市在住の板谷清隆さん(66)が国と県の補助金を得ないで不当な市税を使用した、不必要な支払い分の1億6675万円の返還を翁長市長に求めた。

 二つの訴訟は、いずれも地元住民が2月に監査請求を行ったが、「不当な行為がなされてから1年以内に提出しなければならない」と定められた出訴期間に満たないという理由で4月に門前払いされた形となった。ところが、内容について精査された形跡がないため、原告側が住民訴訟に踏み切った。

 徳永弁護士は、「一般市民には情報収集など調査能力が限られていて、1年以内に違法性を判断して監査請求することは極めて困難であり、正当な請求理由は認められるべきだ」と今回の住民訴訟の正当性を強調した。

 一方、翁長那覇市政に対する不満は一般市民に広く浸透している。21日、那覇市中心部の牧志公民館で行われた那覇市議会報告会では、中国福建省・福州市の名誉市民である翁長市長の中国寄りの姿勢をただす質問が相次いだ。

 質疑応答の時間では、60代の男性が「龍柱の那覇市建設を撤回させよ」と主張。80代の女性は、「国際通りにこのほど設置された爬竜(ハーリー)船の模型、および龍柱のデザインが施された大型スクリーンは税金の無駄遣いだけでなく、中国政府のPRではないか」と疑問を投げ掛けた。

 別の男性は、「このままでは那覇市は福建省になる」と危機感を訴えるとともに、「翁長市長は中国べったりだ。地元の新聞も中国にとって都合の良いことしか報道しない」と主張。「中国が武力でもって、日本固有の領土である尖閣諸島(石垣市)を奪取しようとしていることや中国の(チベット、ウイグルに対する)占領政策についてもっと書いたらどうだ」と地元紙記者に迫る場面があった。

 これに対し、翁長市長に近いといわれる市議たちは「国防は那覇市議会が考える問題ではない」と逃げ腰の釈明をした一方で、尖閣問題については、「中国とは平和的かつ友好的に解決したい」と国を代表して中国側を代弁するかのような発言をした。

 中国皇帝のシンボルであるとの認識があるとされる龍柱について、市議会の認識を求められた自民党新風会の知念博市議は「人それぞれいろんな考えがある」と明快な答弁を避けた。また、翁長市長と距離を置く別の市議は「6月の定例議会で龍柱建設が議題となる」と語り、今後議会で龍柱の予算執行をめぐり紆余(うよ)曲折が予想されるとの見方を示した。