「社会との関わり」が欠けたサンデー毎日「失敗しないセカンドライフ」特集
◆現実離れした成功話
ついついこういう見出しに目がいくようになる。「失敗しないセカンドライフ」。サンデー毎日(11月10日号)の特集である。読者層が圧倒的に中高年となっている今、3回に1回はこうした企画が組まれる。新たな読者層の開拓よりも、昔から週刊誌を読んできた世代を対象とせざるを得ない現状を如実に表している。
大臣の首が飛ぶ「○○砲」が炸裂しているが、第4次安倍再改造内閣はまるでデコイのように撃ちやすい標的が並んでいるのだから“ありがた味”も薄れるというものだ。ほとんど身内からの内部告発。まず秘書やスタッフの“働き方改革”から手を付けなければ、週刊誌への「ネタ提供」はやまないだろう。
さて、「メガ盛り50ページ」の大特集だ。冒頭は作家の下重暁子による、定年に向けて人生を逆算していかず、定年後にこそ本領発揮し、未来への時間を生き始めるべきだと、明るく晴れやかな気分に誘うエッセイで始まる。読者諸兄はすぐに想起されるだろう。「2000万円必要」とされるのに、こんな余裕の退職後を迎えられる人がどれほどいるのかと。
さらに続けて、40代で田舎暮らしを始めた俳優の柳生博、主婦からプロ歌手に転身した秋元順子、銀行員から作家となった江上剛などの“成功話”が並ぶ。どれほどの人がこんなキラキラした人生を歩めるか。こんなレアケースを挙げて、セカンドライフのアドバイスをするのは現実離れしている。
◆総花的で意図が曖昧
だからなのか、同誌は「再就職」「起業」「定年男子の手習い図鑑(料理指南)」「老後破綻を防ぐマネーの鉄則」など、生きていくためのアドバイスも並べ、さらに“豊かな生活”を演出する趣味活動として「国内旅行」や「トレッキング」も紹介する。
ほかに経済ジャーナリスト荻原博子の「定年後にやってはいけない5つのルール、定年前にやっておくべき3つのルール」や、人間関係の潤滑油である「社交辞令を正しく磨く」という記事もある。
一つ一つが単独の特集になる話題で、なぜ今回こんなに総花的に詰め込んだのか、企画意図がいまひとつ分かりにくい。それに、実際に読んで参考にしたり、具体的に行動に移せる人がどれくらいいるかだ。
60歳でスパッと働くのやめて退職した知人がいるが、ほとんど何もしていない。散歩とフィットネスは日課だが、それ以外何かをやっている様子もなく、実際、庭の手入れもサボりがちだ。第一、彼は地域との関わりが希薄だ。
サンデー毎日の特集に欠けているものといえば、この「社会との関わり」あるいは活動基盤としての友人知人との「絆」づくりだろう。特集で述べられていることは全て「個人」のことである。もちろん自分の始末をつけることは重要だが、地域との関わりが「セカンドライフ」ではもっと大きな基盤になる。
例えば、自治会の役員、民生委員、児童委員、公民館ボランティア、学校支援隊、等々、自分を必要としている社会がすぐそばにあり、しかも、これからどんどん担い手不足になっていく。そんなところに「趣味生活で余裕の退職後」を推奨するだけでいいのか、ということだ。
◆地域貢献の取材期待
退職後に待つ長い時間の大半は地元で過ごすことになる。そこに住みながら趣味だけで地域との関わりなしに生きていくことは難しい。子育て時代はPTAや保護者会で否応なく子供を通じたサークルに所属せざるを得なかったが、退職後にはそうした機会はないのだ。ふと行き先を失って散歩しか日課のない生活を繰り返すという人も多いはず。
とはいえ、実際に「会社」から「地域」に活動の場を移していくのは簡単なことではない。こうしたことこそ「セカンドライフ」特集で取り上げるべきだ。地域貢献に生きがいを見いだし、第二の人生を充実させている成功例や失敗談などが誌面に登場するのを期待する。(敬称略)
(岩崎 哲)