「一帯一路」推進へ中国とパキスタンが「悪魔の取引」と米FP誌が警告
◆中国がJeMを支援
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方のインド側で2月14日に爆発があり、治安要員少なくとも36人が死亡、両国間の緊張が一時高まった。犯行声明を出したパキスタンのイスラム過激派「ジェイシモハメド(JeM)」を中国が擁護しており、米誌「フォーリン・ポリシー(FP)」は、シルクロード経済圏構想「一帯一路」の一環として進める「中パ経済回廊(CPEC)」守るため中国がパキスタンと「悪魔の取引」を交わしたと警告している。
係争地カシミールは、中国、アフガニスタンとの国境にも近い。CPECの基点となる地域でもあり、カシミールの安定化はCPECにとって不可欠だ。CPECは、中国からアラビア海に抜ける輸送路を築くもので、中国は600憶㌦もの資金を投入するとしている。投資を呼び込めるパキスタンとしても歓迎だ。
FP誌によると、中国は3月14日、国連でJeMの指導者マスード・アズハルをテロリストに指定することに反対した。FP誌は、「中国はJeMを外交的に援護することで、この地域の経済的利益を守り、友好国パキスタンを支援している」と指摘した。
中国は昨年、CPECをパキスタンの隣国アフガンに拡大することを決めた。それには、アフガンの支援が必要であり、米国とアフガンの反政府組織タリバンとの交渉に深く関与するパキスタンとJeMを支援することでアフガン関与の道を開こうとしているという構図だ。
◆勢力を増すタリバン
米タリバン交渉は、カタールのドーハで進められているが、アフガン政府は加わっていない。パキスタンは、アフガン政府と交渉するようタリバンに圧力をかけており、FP誌によると「(米タリバン交渉の)成功は米軍のアフガン撤収を意味するが、アフガンで中国はビッグプランを練っている」。タリバンとアフガン政府との交渉が、情勢安定につながり、米軍撤収につながるとなれば、中国にとってはこれ以上のことはない。
中国では、新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒への弾圧が伝えられた。イスラム過激派を敵に回したくない中国としては、JeM支援で、その矛先をかわそうという狙いがあるとの指摘もある。FP誌はアズハルについて「(CPECの)安全を確保するための頼みの綱」と指摘するが、テロ組織JeMは一つ間違えば、地域の安全の脅威となる可能性もあり「微妙なバランス」を迫られることにもなる。そのためにもJeMを「手なずけて」おく必要が中国にはあるということだ。
CPECは既に、大きな脅威にさらされている。係争地カシミールはCPECの一部だからだ。さらに、アフガンではタリバンが勢力を増しており、「内戦再発の瀬戸際に立っている」。
「CPECの成功にはパキスタンだけでなくアフガンの安定も不可欠だ」とFP誌は指摘する。それには、パキスタンが、テロ組織を抑制し、タリバンとアフガン政府が和解する必要がある。さらに、和平交渉が成功すれば、米軍がアフガンから「3年から5年内に撤収」する可能性が出てくる。そうなれば、中国は、アフガンとの関係を強化し、CPECを自由に拡大できる余地がいっそう広がる。
◆失敗すれば地域混乱
FP誌は、「中国とパキスタンは、CPECを守るために、JeMを支援し続け、タリバンを丸め込まなければならない」と指摘する。これに失敗すれば、地域は混乱するだけでなく、CPECという一帯一路の「フラッグシップ(最も重要な部分)」を失うことにもなるからだ。
経済的利益を守るためにテロ組織と手を組む中パの「悪魔の取引」が、地域の長期的安定と利益につながるかどうかは大きな疑問が残る。米軍のアフガン撤収が、中国のパキスタン、アフガンでの影響力強化につながることも間違いない。
(本田隆文)