世界の通信技術企業の戦いの現状を詳述するNW日本版「5Gの世界」


◆米中が主導権を争う

 「5G」という言葉がメディアにしばしば登場する。次世代通信規格のことである。新しいだけではない。これまでの生活を一変させる革新的な技術なのだという。

 アメリカと中国が「貿易戦争」の真っ最中だ。「貿易」というと関税をめぐる争いに聞こえるが、実態は5Gの主導権をめぐる「次世代先端技術覇権戦争」というのが正しい。そしてこの戦争は中国がリードしており、その遅れを米国が力づくで巻き返そうとあの手この手を駆使しているというのが現状である。

 ニューズウィーク日本版(3月26日号)が特集を組んでいる。「5Gの世界」だ。「5Gが導く第4次産業革命の波」の記事でそもそも5Gとは何で、どう世界が変わるのかを説明している。次の記事で米中戦争の象徴となっている中国の通信機器企業「ファーウェイ」を取り上げ、さらに「中国IT企業追放で得するのは誰か」では世界の通信技術企業の戦いの現状を説明していて興味深く読んだ。

 「5Gの時代は、おそらく、私たちがいま想像できる未来像を凌駕するものになるだろう」「5Gは人類のライフスタイルを変えてしまう可能性がある」と指摘するのは冒頭の記事を書いた「国際ジャーナリスト、マサチューセッツ工科大学(MIT)元安全保障フェロー」の「山田敏弘」氏だ。

◆SFの世界が現実に

 5Gになると通信が超高速、大容量になり、しかも「時差」がほとんどない「超低遅延」を実現する。それによって何が可能になるかというと、スマートフォンやPCが小型化し、家電とつながって外出先から操作でき、多言語翻訳が瞬時に可能となって「言葉の壁」がなくなり、フォログラムを使って遠隔地の人とも姿を見つつ会話ができるようになる。まるで映画「スターウォーズ」に描かれたSFの世界が現実のものになるというのだ。

 多言語通訳が可能になるということは「便利」を通り越して、例えば、「笑いの基準」までが変わってくると山田氏は指摘する。笑いのセンスが世界基準になると同時に、自身の文化背景や「人種や国家の概念が人々の間で強く意識される」ようになるという。

 完全な自動車の自動運転が実現すれば、通勤であれレジャーであれ「移動」の概念が変わる。医療でも遠隔地操作とバーチャルリアリティー(VR)により手術ができ、世界中の監視カメラを繋(つな)いで「自由とプライバシーを手放すのと引き換えに、安全を手に入れる」ようになる。

 このように「変革は何もテクノロジーだけにとどまらない。人々の概念も変えてしまう可能性がある」(山田氏)のだ。

◆“覇権構造”に変化も

 そうなると5Gの主導権をどこが握るかによって、大げさでなく世界の“覇権構造”が変わってしまう。トランプ米大統領がシャカリキになってファーウェイを締め上げているのにも理由があるというわけだ。

 トランプ大統領は昨年8月、ファーウェイ製品を米政府機関が調達することを禁じる法案に署名し、同盟国にもそれを求めた。ファーウェイ製品で通信基地局を造ると「情報が盗まれる」という安全保障上の問題が生じるから、というのがその理由だ。そしてファーウェイはその情報を中国当局や軍に渡しているというのである。

 しかし、同じことを米国もやってきた、という事実を「ジョナサン・ブローダー記者」が「ファーウェイの逆襲」の記事で明らかにしている。米国家安全保障局(NSA)が「情報収集プログラム『PRISM』」で「世界中のメールや電話の通信情報を監視していた」ことをNSA元職員エドワード・スノーデンの内部告発によって暴露された。

 こうなると「どちらに取られるか方がましか」という問題になってくる。現在、世界は自由資本主義のルールで動いている。しかし一党独裁の中国共産党支配下の世界では言論・集会の自由や思想・信条の自由もなく、監視され、人権が抑圧され、少数民族が圧迫され、宗教も文化も破壊される。誰がそのような世界を望むだろうか。答えはおのずから明らかだ。

 しょせんコンビニでもファストフード店でも、何らかの情報は抜き取られている。もちろん安保情報ではなく個人の嗜好(しこう)情報だが。

 5Gが劇的に生活を変えるとなれば、その主導権を中国に渡してはならないことは明らかだ。かといって今のような“仁義なき戦い”がまかり通ってもならない。もっと冷静なファーウェイの実態に迫る記事も読んでみたい。

(岩崎 哲)