地震予知で読者をいたずらに煽る見出しは禁物!ポストの予測記事
◆「隆起・沈降」で判断
週刊ポスト1月18・25日号で<本誌でしか読めない最新版>と銘打ち、1月3日熊本「震度6」も的中!/村井俊治・東大名誉教授はこう分析した「この揺れは“引き金”に過ぎない―」/MEGA地震予測が緊急警戒宣言!、という見出しを枕に、「南関東大激震に繋がるこれだけの理由」というタイトルで、大地震の予知に言及している。
正月気分真っただ中の1月3日、熊本地方を襲った最大震度6弱の地震。「MEGA地震予測」は地表の長期的な「隆起・沈降」を調べ、東西南北のどの方向に向いているかの「水平方向の動き」を加味し、独自の分析を行う。
同ホームページによると、主宰するのは、測量工学の権威である村井俊治東京大学名誉教授。人工衛星を使用し測量データを集めるのも特徴の一つ。得られた情報は株式会社地震科学探査機構(JESEA)が、事業の一つとしてアプリによる配信を行っている。
村井氏によると、「過去のデータを見ると、震度5以上の大地震は、4㌢以上の異常変動が一斉に起きた後、3週間超の『静穏』状態を経て起きる傾向が強い」「今回の熊本の地震もこの条件を満たしています。今後、同様の動きが各地で起こる可能性は否定できません」という。
しかし村井氏のこの発言を見る限り、記事の見出し「1月3日熊本『震度6』も的中!」「この揺れは“引き金”に過ぎない―」は、煽(あお)りすぎで正確ではない。週刊誌の編集部が、地震予測に言及する学説を紹介するのは特に問題はない。だが地震予知があたかも可能であるような見出しの取り方は絶対に禁物だ。
同誌は、村井氏のこれらの話を総合し、丸々1ページを使って、「アップデート版 異常変動全国MAP’19vol.1」と題し、全国地図に警戒ゾーンの分布域をチェックし掲載している。
それによると警戒ゾーンで危険度1位は首都圏・東海、2位、南海・東南海、以下、奥羽山脈、道南・青森、九州南部、南西諸島。要警戒とされる「1週間で5㌢以上の上下動」があった地点を示し、そこに「隆起・沈降」などを加え、危険度の順位が決定され、図中に表示されている。
このうち1、2位の地域は、政府が今後30年以内に巨大地震が発生する確率が高いと警告している地域に一致している。この両ゾーンにまたがって同時期に連動する地表の動きが見られたという。
◆政府地震予知は皆無
わが国は1965年に国家的プロジェクトで地震予知の研究が始まった。しかし、いまだかつて一度も予知をしたことはない。したことがないから失敗したこともない。
政府の中央防災会議の作業部会は昨年末、南海トラフ巨大地震の震源域で大地震が起きた場合の対応に関する報告書をまとめた。その報告書では、巨大地震の想定震源域のうち、①東側か西側のどちらかをマグニチュード(M)8以上の地震が襲う「半割れ」②一部でM7以上の地震が起きる「一部割れ」③断層がずれ動く「ゆっくりすべり」―の三つを前兆現象と定義。いずれかの現象が起きた場合、気象庁は最短2時間で「臨時情報」を発表し、政府もほぼ同時に防災対応を取るよう呼び掛けており、「予知」については一切述べていない。
日本列島は活断層だらけで、その寄せ木細工のようなものだ。前もって活断層が知られていなかったところで地震が起これば、そこには活断層があったことになる。こちらの“寄せ木”が動くか、そちらの寄せ木が動くかは事前に分からない。地震はいつどこで起こっても不思議ではないということだ。
◆工学駆使の予測研究
これに対し、地震学とは別の工学分野で、地震の前兆を見つけ出そうとするつわものたちも出ている。村井氏が主宰する測量学による研究もその一つ。ほかに知られているのは電磁気現象の異常信号のデータの分析による予測などがある。これは日本だけでなく、ギリシャ、米国、ロシア、中国などに研究者がいることが強みだ。
測量学による予知も、今後、データが多くなればなるほど、予測の精度は高まっていこう。国民の側は、それらをあくまで地震に関する情報の一つとして“咀嚼(そしゃく)”することが大切だ。
(片上晴彦)