米政権の中国製通信機器締め出し包囲網に各紙、中国同情論は皆無
◆日本政府も米に同調
政府は10日に、情報漏洩(ろうえい)やサイバー攻撃など国の安全保障や防衛上の懸念が指摘されることから、各府省庁や自衛隊などの使用する情報通信機器の調達先について中国企業を締め出す方針を打ち出した。これによって名指しは避けたが、中国最大の通信機器メーカーの華為技術(ファーウェイ)と、中興通訊(ZTE)の2社の製品が事実上、政府調達から排除されることになる。
既に米国は4月に連邦通信委員会(FCC)が米国の通信会社に対して、安全保障上の懸念がある企業からの機器調達を禁ずる方針を決めた。懸念がある企業が中国の企業を指すことは言うまでもない。そして、「国防権限法」(8月に成立)により、政府機関や政府との取引企業に、2社の機器やサービスを利用することを明確に禁じてダメ押しした。また米国防総省が9月に公表した「サイバー戦略」では、中国について「持続的に機密情報を抜き取っている」と非難。日本を含む同盟国に、2社の半導体などにはウイルスなどが仕込まれ、中国による不正傍受などに悪用されているとして、2社製品の利用禁止で共同歩調を取るよう要請してきた。
こうした求めを受けた英国や豪州、ニュージーランドが同調して動き、日本も今回、これに習ったわけである。政府の方針を受けて、NTTドコモなど携帯電話大手3社と来年秋に参入する楽天も、次世代通信「5G」の基地局などに中国製品を使用しない方針を決めたことが報道されている。
◆情報開示求めた日経
米国政府の圧力で、中国製通信機器の排除の動きが先進各国で強まっている現状。いつもなら米国に追随する日本政府に対して「米国のポチ」などという揶揄(やゆ)や、包囲網を敷かれた中国への同情の声が少しは聞かれてもいいのに今回、各紙の論調からはそうした声が皆無なのも珍しい。それだけ中国の行状に対する反発が実は根強いことの裏返しなのだろうか。朝日を除いて各紙は12日までに論調(社説、主張)を掲げている。
中立的な見出しを掲げたのが日経「各国から締め出される中国製通信機器」(8日付)と毎日「新局面迎えた米中の争い」(11日付)。日経は政府の方針を「安全保障上の懸念があるなら、特定の製品に門戸を閉ざすのもやむを得まい」と是認しつつ、具体的にどんなリスクがあるのかを米国から情報を得て「自らも確認し、できるだけ情報開示してほしい」と注文を付けた。そして「日本企業にとっては一連の環境変化がチャンスになる可能性もある。情勢を見極めて、したたかに対応してほしい」と、いかにも経済の日経らしく結んだ。
毎日は日中関係に無用な摩擦を生まぬ配慮を求める一方で「中国は昨年、国民や企業に国の情報活動への協力を義務づける『国家情報法』を成立させた」こと、ファーウェイ創業者が中国軍出身で軍との緊密な関係の指摘もあることに言及し、中国に「摩擦回避には透明性を高め、世界ルールに歩み寄る姿勢」を求めた。またファーウェイ幹部がカナダで逮捕されたことで「中国はカナダによる人権侵害だと批判するが、中国の司法制度よりカナダの方が公正と考えている人が多いことを自覚すべき」と説いたのも、適切かつ痛烈な指摘で同意できる。
◆反発する中国に反論
「中国の不正行為への関与があり得る以上、調達先から、中国企業を排除するのは妥当な判断」と政府を支持する読売(12日付)は、政府の決定に反発する中国に反論。「日本の政府機関は恒常的にサイバー攻撃を受けている。国の安全を維持するため、より踏み込んだ措置を取るのは当然だ」とし「多くの国が、ファーウェイなどに対する圧力を強化した事実を重く受け止める」よう迫ったのも評価できる。
産経(8日付)は「日本が中国からのサイバー攻撃に脆弱(ぜいじゃく)であれば日米同盟は弱体化する。中国は尖閣諸島(沖縄県)を奪おうとしている国でもある。中国通信機器大手の排除は、日本自身の守りに欠かせない」として同盟国としての共同歩調の意義を強調。小紙(11日付)も「同盟の抑止力を維持する上で、適切な判断」と政府を支持したのは適切である。
(堀本和博)