北方領土「2島返還」にケチをつけ既成事実化を手助けするポストと毎日


◆時間足りぬ返還交渉

 ゴーン前日産会長が誌面をにぎわしている。「日産『極秘チーム』ゴーン追放『一年戦記』」(週刊文春12月6日号)、「新聞テレビでは分からない『カルロス・ゴーン』20の疑問」(週刊新潮12月6日号)、「日産経営陣は『独裁者ゴーン』とこう戦った」(週刊ポスト12月7日号)、「日産『権力闘争』の裏側を暴く!」(サンデー毎日12月9日号)等々。見出しを見ただけで満腹になりそうだ。

 この世界的カリスマ経営者の逮捕という超ド級のニュースがなければ、こちらの方が大きく扱われただろうという話題がある。「北方領土2島返還」である。11月14日、安倍晋三首相はシンガポールでロシアのプーチン大統領と会談し、「1956年の日ソ共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる」ことで合意した。

 日ソ共同宣言では平和条約締結の後、「歯舞、色丹島」の2島を返還することなっている。今回の安倍・プーチン会談ではこれに「+α」するというのだ。

 だが待てよ。日本がこれまで主張してきたのは4島一括返還ではなかったか。いつ安倍首相は「二島(ポッキリ)」で手を打とうと考えを変えたのか。週刊ポスト(12月7日号)が伝えている。

 同誌は安倍首相が「日本史の教科書に記されるほどの“偉業”」を得ようとしていると分析する。首相の任期はあと3年を残す。しかし、領土返還交渉には時間が足りない。そのため4島返還の「持論を曲げる道を選んだ」というのだ。

 安倍首相は在任中に成し遂げる目標を定めており、「その重要な柱のひとつが『北方領土返還』」で、次に「北朝鮮による日本人拉致被害者の帰国」そして「憲法改正」だという。

 だが拉致問題は掲げた目標の「全員帰国」は実現しそうもなく、憲法改正も見通しが立っていない。そこで「安倍家3代の課題に終止符を打つとともに、歴史に残るレガシー(政治的遺産)としたいという思い」で「2島でもいい」とプーチン氏に申し入れた、というのがポストの分析だ。

◆「阻む三つの壁」指摘

 サンデー毎日(12月9日号)もほぼ同じ分析をしつつ、早くから「2島返還」を主張してきた鈴木宗男新党大地代表と和田春樹東大名誉教授から話を聞き、「2(ポッキリ)+α」を「阻む三つの壁」を指摘した。

 「一つは『法理』の壁」だ。「外務省が作り上げた『4島は日本固有の領土』という理屈を自ら否定しなければならな」くなる。「二つ目は『米国』の壁」で返還された歯舞、色丹2島に米軍基地を置かないという保証をどう取り付けるか。「第三の壁は『世論』」で日本国内の反発はもとより、ロシア側の反発が「むしろ心配」と和田氏は同誌に語る。

 「色丹島には3000人のロシア人が住んでいる」と和田氏は言うが、正確にはウクライナやアルメニアから移住させられてきた人々だ。これは筆者が色丹島で直接聞いてきたから間違いない。それは置くとして、ともかく既に世代を重ねた住民たちの処遇は大きな課題となる。

 これらの「壁」があるにもかかわらず、首相は「来年6月」には平和条約を結ぼうとしているという。鈴木氏は「結んでいただきたい。そうしないと島の引き渡しなど後のスケジュールに差し支える」と言う。どんなスケジュールなのか、同誌は書いていないが。

◆一歩前進試みる首相

 ロシア最大の漁業会社ギドロストロイの子会社が北方領土に事業を展開しており、中国や韓国の資本も入ってきているという。日本が「+α」の部分で経済協力や投資を促されるとなると、既に利権を押えている彼らの間で何を取り返せるのか、どう割り込めるのか、はなはだ疑問だ。

 各誌は「2島返還」にケチをつけているようでいて、課題や経緯を報じることで、逆に既成事実化の手助けをしているようにも見える。

 憲法改正でも本来自民党が掲げてきた「自主憲法制定」とは程遠い、9条2項を残したままで自衛隊明記する“加憲”に目標を変えた。ともかく改正の歯車を一つ動かそうというわけだ。北方領土返還も同じくまったく動かなかった歯車を回そうとしている。動かなかったものをともかく一つ前に進める。こうした首相が以前にはいなかったことも強調しておくべきだろう。

(岩崎 哲)