「女性受験者冷遇」と断じたが、追及不足だったアエラ「東京医大の闇」
◆生え抜き医師を優遇
アエラ8月27日号は「東京医大の闇」と題して、同大学への政府高官子弟の情実入学やその後明らかになった男女受験者に対する採点のさじ加減の実態を捉え、「女子が『合格しにくい』医学部ランキング」の調査記事、東京医大卒で医者の香山リカ氏へのインタビュー、女子現役医師3人による仮名鼎談(ていだん)、の3本立てで特集している。
調査記事は、大学別に2018年度の医学部志願者と合格者に占める女子の比率(大学通信調べ)の表を示し、女子合格者比率を志願者の女子比率で割った数値の低い順から「女子の合格しにくさ」としてランク付けしている。
それによると東京医大の女子志願者は39・2%に対し合格者は15・9%。合格者比率を志願者比率で割った数値=「女子の合格しにくさ」は40・5で、53大学医学部中トップ。2位の聖マリアンナ大の54・5をかなり引き離している。
東京医大では「2次試験の小論文(100点満点)の得点にまず0・8をかけて80点満点とし、現役と1~2浪男子には20点、3浪男子には10点加点し、女子と4浪以上の男子には加点がなかった」という。小論文の評価点だけでは合否への影響度が必ずしも明らかでないが、表の数値からは、東京医大の女子合格率の低さが突出しており、記事で東京医大は「女性受験者冷遇」と断じたのは妥当だ。当大学の意図的操作が、女子締め出しに大いに効き目があった。
この不正行為の背景には「経営上の判断」があるとして「准教授、教授といったポストを目指し、比較的低賃金でも働いてくれる『生え抜き』の医師は、大学経営にとって大きなプラス要因だ。結婚や出産を機に一線を退いたり、グループ外の病院に移ったりする人も多い女性を、大学の経営者が敬遠している可能性がある」と、医療専門家の注釈を引用して批判している。
◆女性職場での嘆き節
この後、香山リカ氏へのインタビュー、現役女子医師たちの鼎談が続く。香山さんは「『合格者操作は当たり前』などと得点操作を容認する発言をする人もいますが、まずは性別や年齢に関係なく、平等に門戸を開くのが大前提」と指摘。鼎談では、「私はある大学病院で働いていたときに妊娠したんですけど、どんなにつわりがヒドくても、おなかが膨らんできても休ませてくれませんでした」など、職場での嘆き節が主な内容だ。
確かに、入試で一律減点は信じられないような話だが、一方、記事にあるように「予備校業界では、以前から『医学部入試は女子や多浪が不利』とささやかれてきた」というから、予備校関係者や受験生にとってまったく青天の霹靂(へきれき)の話題でもなさそう。
その上で、特集記事が、①男性受験者に対して女性受験者の一律減点②一律減点は仕方がないが、その採点基準を入試要項に事前に明示していなかったこと③入学試験と銘打ちながら事実上、採用試験になっていること④実際の医療現場における男女医師へのセクハラまがいの差別⑤「男性受験者に対して女性受験者の一律減点」は、今日の男女不平等社会の象徴的事象―など、いずれの事実あるいは認識について特に問題視しているのかが、いまひとつはっきりしない。
やはり今回の話は、急速な超高齢化社会を迎え劇的に変わる、変わらざるを得ないわが国の医療業界における医療・医師事情の一端を反映していると言えるのではないか。記事では、そこらを腰を据えて語らないから、「東京医大の闇」と大きく出た割に、かえって問題が矮小(わいしょう)化されてしまったように見える。
◆米のきつい男女平等
男女平等について言えば、米国では一見、実力主義、男女平等のようだが、もっと厳しい。自然科学の場合、例えば「博士号取得後の教育・研究職を得るため、女性は男性より3つ多くの論文を有力誌に掲載されないと男性並みに生産的と判断されない」(全米大学女性協会リポート)という。まさに性差による配慮などは感じられない。
それに対して一例だが、今、日本は化学分野で女性研究者が増えているのは女性の粘り強さなどが発揮されているからだ。医療分野でも日本の風土を生かした男女平等を実現したい。
(片上晴彦)





