2%目標実現時期の削除に「現実的」「説明足りぬ」と好対照の読売、産経
◆6度も達成時期延期
日銀は4月下旬に、黒田東彦総裁再任後初となる金融政策決定会合を開き、現行の長短金利操作を柱とする金融緩和策の維持を決定。同時に最新の経済・物価情勢をまとめた展望リポートで、2%物価目標の実現時期について、「2019年度ごろ」としていた記述を削除した。
これに関し、社説で論評を掲載したのは日経、産経、読売の保守系3紙。見出しを並べると、日経(29日付)「日銀は市場との対話の技術を磨け」、産経「『時期削除』の説明足りぬ」(同)、読売(30日付)「達成時期の削除は現実的だ」――で、産経と読売が好対照をみせた。
読売が「現実的」としたのは、物価の低迷が長引いて、日銀の物価目標達成時期の先送りが6度にも及び、「守れない約束を重ねて日銀の信任が損なわれる事態を避ける意図も窺(うかが)われる」からである。
また、黒田総裁が会見で、19年度ごろとしてきた2%目標の実現時期について「達成期限ではなく見通しだ」と指摘し、その先送りが直ちに追加緩和につながるとの「市場の誤解」を回避するためと強調したことを妥当とみたからでもあろう。
若田部昌澄副総裁が、3月の衆院所信聴取で「2%の達成が難しければ追加緩和を提案する」と表明していたため、日銀が達成時期を掲げ続ければ、現在でさえ、長期緩和の副作用が目立ってきているのに、「市場で追加緩和の観測が強まるのは必至だった」からである。
◆目指すはデフレ脱却
一方、産経の方は、読売のそうした見方に理解を示しながらも、「唐突に時期の明示をやめた波紋は小さくない」と懸念する。
2%を確実に果たすという日銀の決意がこれで理解されるのか。日銀は、できるだけ早期に2%を実現する方針に変更はないという。その道筋をどう描いているのかを、もっと丁寧に説明すべきである、というわけである。
確かに、産経の言い分はその通りである。黒田総裁は会見で、個人的見解と断った上で、「19年度ごろに2%程度を達成する可能性が高いと思っている」と述べたが、展望リポートでは19、20年度とも1・8%に据え置いている。
産経は、「大半の(政策)委員は見通しが下ぶれするリスクが大きいとみ」ているわけで、「これでは2%を十分に見通せるとは言い難いと日銀は厳しく受け止める必要がある」と言うのも肯ける。
さらに、そもそも、実現時期の記述を削除しながら、2%目標自体と早期達成の決意は変わらないとした総裁の会見自体が分かりにくい。
産経が指摘するように、日銀が目指すべきはデフレ脱却を確実に果たすことであり、2%目標はそのための手段にすぎない。いたずらに目標時期にとらわれて場当たり的に政策を変更するのは望ましくない。読売も、「今、求められるのは大規模緩和の利害得失を冷静に見極め、柔軟に政策を検討する姿勢だろう」と指摘する。
◆緩和強化不要と日経
この点では、両紙とも「2%目標にこだわる必要はない」との認識で一致しているようである。読売はさらに、米欧が日銀と同じ2%程度の物価目標を掲げながら、目標に達する前から緩和策の出口戦略に乗り出していることを挙げ、特に「米連邦準備制度理事会(FRB)は、数年後までの利上げペースや、量的緩和縮小の工程表を示し、市場との丁寧な対話に努めている。重要な観点である」とする。妥当な提言である。
日経の「日銀は市場との…」は、今回の見直しを「日銀と市場の2%目標をめぐる認識の溝を埋め、市場との対話を円滑にしようとする試み」とし、展望リポートの見通しを達成時期の目標ではないことを明確にしたのは「一歩前進」と評価したが、物価目標の性格については「まだわかりにくい面もある」とした。見出しの「市場との対話の技術を磨け」というわけである。
日経は、「物価は2%には届かないものの、景気は拡大し雇用情勢も逼迫が続いている」「2%を達成するために、金融緩和を強化する必要はない局面だ」と先の2紙より姿勢が明確である。今後についても、「金融緩和の副作用も含めて政策の検証を柔軟に進め、必要な修正をためらうべきではない」と確固としている。
(床井明男)