中国の圧力で検閲加担したケンブリッジ大の弱腰を追及するNW日本版
◆「中国マネー」の誘惑
ニューズウィーク(NW)日本版(9月5日号)が、中国の言論・学問の自由侵犯を糾弾して、骨のあるところを見せている。「欧米の名門大学よ、中国マネーに屈するな」がそれ。
英国の名門ケンブリッジ大の出版局は先月中旬、中国で民主化運動を軍が弾圧した1989年の天安門事件に関する論文など、インターネット上に掲載された300点以上の中国関連の文書について、中国からのアクセスを遮断したことを明らかにした。
既に時事電で流布された事実だが、NWはその背景や顛末(てんまつ)を記し「チャイナマネーの誘惑に負け(るな)」と警告している。
NWのレポートは今回の“事件”の背景に、2012年に習近平が権力の座に就いてから、さらに思想・言論統制が強化されたことを挙げている。「中国当局は統制の意図を隠そうともせず、大学の教職員向けの検閲ガイドラインを一般に公開している。それによれば、憲法と共産党指導部の批判は一切許されず、宗教について論じることも禁止されている」。そのため、中国当局は、国内はもちろん、外国に滞在する学生や研究者にも監視の目を光らせる。著名な中国人教授は「過去40年で今ほど言論の自由が制限されたことはない」とコメントしている。
そのこともあって「ここ10年に欧米で学ぶ中国人留学生は急増」した。「中国の教育制度では思考力よりも暗記力が重視される上、退屈なマルクス主義の講座を何コマも履修しなければならない。そんな息苦しい環境から逃れて、欧米で学びたいと思う若者は大勢いる」のだ。
しかも「欧米の大学もニーズに応じようと、リクルーターを中国に送り込み、現地の留学斡旋会社を通じて入学志願者を募って」いる。入学者を増やしたい、という欧米の大学経営者の腹なのである。それが海外留学生の流れを加速させている。
◆対中無警戒の英社会
今回の検閲加担は、ケンブリッジ大学出版局の決定だった。このような事態が再び起こらないようにするには、「(出版局が中国の圧力に屈すれば)欧米の大学の図書館が、検閲に加担する出版局の出版物や学術誌の受け入れを拒否することだ」と厳しく追及。「(欧米の大学と中国の)相互交流を通じて中国の大学にリベラルな風を吹き込めるなどと考えるのは甘い」と“絶叫調”の一文で締めている。
NWの主張に異論はないが、中国政府が外国の世論や政府関係者を動かすのに、知恵を絞り、あらゆる手段を尽くしているのは周知の事実だ。ケンブリッジ大学のナイーブさには驚くが、それを助長する、中国に対する無警戒の要素が英国社会の中に瀰漫(びまん)しているのではないか。記事にはそういった指摘も欲しかった。
◆法的対処必要な段階
一方、中国は最近、米ハーバード大学へ3億6000万ドルの寄付を表明したが、それも米国の世論誘導が狙いだろう。この巨額寄付に対し、米軍の元情報分析官アンダース・コール氏は「このような寄付を受け入れることは、米国の安全保障にとって利益にならないとみられ、ハーバード大の研究と教育に必要とは思われない。中国関連の資金が米政界、シンクタンク、大学に流入するのを禁止する法律を定めるべきだ」と、警告している。
米国では、中国のなりふり構わぬ金銭による買収や大学への工作は、既に「法的対処」が必要な段階なのだ。
政治工作についても同様で、米国のトランプ政権や本人、その側近にどうにかして取り入ろうとしている。例えば、今年、中国電子商取引最大手・阿里巴巴(アリババ)集団の馬雲会長は、ニューヨークで就任前のトランプ現米大統領と面会し、今後5年で米国内に100万人の雇用を創出する投資計画を伝えた。
だが、アリババの背後には、中国政府の存在があることを見過ごすことはできない。民間企業を名乗ってはいるが、実際は既得権益集団の企業であり、アリババの投資家や株主は、既得権益集団で固められている。馬会長は、いわば中国共産党の既得権益集団の代理人である。
中国の妥協と譲歩を繰り返しながら、欧米要人また民衆の中に深く入り込む巧妙さに対し、欧米諸国は「へびのように賢く」(聖書のみ言)対処しなければならない。
(片上晴彦)