地方紙「社説」のカラクリ触れずテロ準備罪に「大半が反対」とした毎日
◆「肯定的」は一社のみ
毎日メディア欄(22日付)が興味深い分析記事を載せた。6月に成立したテロ等準備罪を導入する改正組織犯罪処罰法について全国紙、ブロック紙、地方紙の大半が16日付(一部は17日)で社説・論説を載せ、地方紙では「暴挙」「おごり」と強い表現で非難する社が目立ったとしている。
それによると、ブロック紙と地方紙の社説・論説の掲載は40社に上り、このうち39社が参院での採択の在り方や運用の懸念など法の問題点を指摘した。地方紙では長崎新聞は捜査対象が限定できていないことを受け、「平和団体などの間で懸念の声が上がっている」とし、秋田魁新報は「参院の役割を否定するものだ」、高知も「民主主義を壊す」、沖縄タイムスは「議論を一方的に封じ込める暴力」と断じたとしている。
興味深いのは社説・論説の一覧表を掲載していることだ。40社のうち39社が批判的というので、肯定的な1社はどこかと探すと、北国新聞(石川県、富山県では富山新聞)だった。「審議が不十分なまま終わったのは残念」としながら「テロ等準備罪は欧米などで一般的な共謀罪に比べ、抑制的で、適用要件が厳しい」と指摘したという。
また、法の見出し表記で「テロ等準備罪」としたのも北国新聞だけ、39社は「共謀罪」だ。ちなみに全国紙でテロ(等)準備罪とするのは読売と産経2紙だから、地方紙はかなり左傾化している。
◆7社が同一の見出し
見出しを見ると、不思議なことにそっくり同じなのが少なからずある。例えば、「1強のおごり極まった」が5社(山形新聞、茨城新聞、日本海新聞=鳥取県、佐賀新聞、大分合同新聞)、「『1強』のおごり極まった」と1強にカギ括弧を付けたのが1社(東奥日報=青森県)、「1強のおごりが極まった」と「が」を入れたのが1社(下野新聞=栃木県)。これらを同一と見なせば、7社にのぼる。「1強のおごり許されず」(デーリー東北=青森県)も似ている。
「1強」「おごり」「極まった」の三つの文言はまるで示し合わせたかのようだ。中身はどうかと言うと、これもそっくり。「民主主義の根幹を成す自由に物を言える権利を奪われないために何をすべきか、何ができるか〓を市民がそれぞれの立場で、じっくり考える必要がある」と結んでいる。
佐賀新聞も同じだったが、謎解きをしてくれていた。末尾に(共同通信・堤秀司)と、ライター名を明記していたからだ。これではっきりと分かった。この「社説」は共同通信の配信ものだったのだ。堤氏は同社の論説委員。論説委員長を務めたこともあり、安保法制に反対論を張っていたことで知られる。
毎日メディア欄は「法と手法、大半が批判 新聞各紙」との見出しを立てているが、その「大半」が共同通信の堤氏1人が書いた「社説」だったことには触れていない。この記事の末尾には(青島顕)とある。
青島氏は社会部記者だが、地方紙の社説の「カラクリ」を知らないのだろうか。それとも承知で、地方紙の「大半」がテロ準備罪を批判しているとの構図を描いたのか。
昨秋、青島氏は日本ジャーナリスト会議(JCJ)から「憲法骨抜きを許した内閣法制局の対応をスクープ」したとして、2016年度JCJ大賞を受賞している。同会議は1954年、ソ連が国際共産主義運動の前衛組織としてつくった「国際ジャーナリズム機構」の要請で組織された日本共産党系の団体だ。そこからの大賞だから、おのずから記事の中身が知れよう。
◆左派論調が乗っ取る
共同通信は一般企業でなく、公益法人だ。全国の新聞社やNHK、民間放送局が「加盟社」となり、運営されている。「正確公平な内外ニュースを広く提供し、国民の知る権利に応える」というのが設立趣旨で、ニュースだけでなく、論説も配信している。
それで共同通信がなければ、地方紙の新聞作りは立ちどころに行き詰まる。これは日本特有のメディア構造だ。だが、論説は反国家、反権力色が強い。地方紙の多くはそれを鵜呑みにして、そのまま「社説」としている。
言ってみれば、地方紙の言論が通信社の左派論調に乗っ取られているのだ。それに抗うのが北国新聞1紙だけとは何とも情けない。
(増 記代司)





