沖縄への「差別」が拡大しているとの誤解を与えるテレ朝「報ステ」
◆暴力的な抗議活動
沖縄「慰霊の日」の6月23日、沖縄戦の犠牲者らを悼む全戦没者追悼式が糸満市で行われた。この日、テレビ朝日の報道ステーションは「慰霊の日に考える沖縄への“ヘイト”」と題し特集を組んだが、その内容は、本土の人たちによる沖縄への“差別”が広がっているかのような誤解を与えるものだった。
番組では、2010年以降、ツイッターに投稿された単語を分析。その結果、「『辺野古』『基地』と『反日』『売国』という言葉が結び付いた『沖縄ヘイト』とも言える投稿がこの4年間で急増していることが分かった」とした。
また、「ネットだけではない」として、沖縄県東村・国頭村の米軍北部訓練場のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)移設工事の警備をしていた大阪府警の機動隊員が、工事に反対する活動家に「土人」と発言した映像を流した。続けて、これについて「『土人である』ということが差別であると断じることは到底できない」とした鶴保庸介沖縄北方担当相の発言や「表現が不適切だとしても、一生懸命職務を遂行した」とした大阪府知事のツイッターでの発言を伝え、こうした政府や大阪府の対応に「沖縄県民は傷付いた」とした。
ヘリパッド建設現場での抗議活動の状況は、沖縄防衛局の職員を活動家たちが取り囲んで羽交い絞めにしたり、暴言を吐き付けるなどする映像がインターネットで出回ったり、逮捕者が出るなど暴力的なものであった。しかし、番組では機動隊員たちが過酷な状況下で任務を果たしていた実態には触れず、ただ政府高官や地方自治体のトップも沖縄への差別意識を持っているように印象付けていた。
そもそも、番組で批判の対象となった「沖縄ヘイト」という言葉の意味は、はっきりしていない。
◆差別ではなく批判
今年初め、東京メトロポリタンテレビジョン(東京MXテレビ)の「ニュース女子」(1月2日放送)がヘリパッド建設現場における過激な反基地活動の実態を紹介したが、その中で名指しで批判された市民団体「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉氏らが「沖縄ヘイト番組」だと反発。1月27日、放送倫理・番組向上機構(BPO)放送人権委員会に申し立てた(2月10日に審議入り)。
これに対して、「琉球新報・沖縄タイムスを正す県民・国民の会」の我那覇真子代表運営委員らは2月24日、記者会見し、辛氏を批判した。
そこで、集会で抗議活動を呼び掛ける辛氏が「若い子に死んでもらう。それからじいさんばあさんたちは向こうに行ったら座って泊まって、嫌がらせをしてつかまってください」と犯罪行為を扇動するような発言をする音声を紹介。同番組に対する辛氏らの抗議について「自らの活動の実態が『ニュース女子』によって暴かれ、地上波によって全国に拡散されることを恐れ、これを封殺するためのもの。氏の言う『沖縄ヘイト』はその理由付けにすぎない」と主張した。
また、「ニュース女子」を製作したDHCシアターは3月13日、「続編」をネット配信。その中で、ヘイトスピーチ対策法の発議者の一人である自民党の西田昌司参院議員は「政治発言はヘイトスピーチにならない」と指摘。「自分たちに不利なことを言われたら差別だとか人権侵害だとか、ヘイトだと言うことが言論空間をゆがめる」と述べている。
「沖縄ヘイト」は、基地反対派が、自らに対する批判を“差別”にすり替え、抑え込もうとする言葉であると言えるだろう。
◆意図的に“溝”強調
報ステの特集の最後に登場したのは、学生グループ「SEALDs(シールズ)琉球」の元メンバー、玉城愛さんだった。昨年6月に行われた米軍属女性暴行・殺人事件の抗議集会で、安倍首相や本土の人たちに対して「事件の第二の加害者はあなたたちです」と訴えたが、その後、「もう一回琉球処分やってやろうか!」という手紙や「本土民にけんか売ってんのか」などというネットでの書き込みが殺到したという。
こうした誹謗(ひぼう)中傷は悪質なものである。しかし一方で、このシールズ琉球は「日本共産党の若手の下部組織である民主青年同盟(民青)の幹部が影響力を行使している」(本紙・昨年2月22日付)で、玉城さんはその主要メンバーの一人だった。この女性の発言を「沖縄の声」を代表するように伝え、“本土との溝”を強調する報道姿勢には疑問を感じた。
(山崎洋介)