東芝半導体の日米韓連合への売却方針に原発絡め政府批判する東京

◆論理誘導がミエミエ

 東芝は半導体子会社「東芝メモリ」の売却について、政府系投資ファンドの産業革新機構を中心とする「日米韓連合」と優先的に交渉することを決めたが、これに毎日、東京が社説で反対している。

 特に東京23日付社説は、「東芝の経営危機の本質は原子力事業の行き詰まりにある」として、「公的資金を子会社買収に投入して東芝を救済するなら、国の政策の見直しが前提となっていいはずだ」と原発政策の見直しまで言及する言いざまである。

 毎日(22日付社説)も、東京ほどではないが、「原発事業を担う国策企業を側面から支える思惑もにじんでいる」とし、「だが、将来の国民負担につながる恐れも消えず、合理的な判断と言えるのか疑問はつきない」と批判する。

 2紙が原発政策と絡めるのは、東芝メモリ売却の発端が米原発子会社ウェスチングハウス(WH)の巨額損失にあるからで、反原発への論理誘導の意図がミエミエなのだが、今回の売却交渉に関しては明らかに視点を広げ過ぎ。半導体政策そのものについて評すべきであろう。

 この点から論評したのが日経(22日付社説)で、「政府支援で技術を守れ」という声が一部にあるが、「日の丸」に過度に固執しても得るところは少ない、と指摘した。

 もっとも、日経社説は、見出しが「『日の丸再編』は日本の液晶を救ったか」とあるように、直接的には2012年4月に日立製作所、東芝、ソニーの中小型液晶事業を統合して発足したジャパンディスプレイ(JDI)について論評したものである。

◆技術流出防ぐと評価

 JDIは設立から5年が経過したが、過去3期連続で純損失を計上し苦境に立っている。日経がこの社説の最後の部分で、前述のように東芝に言及したのは、東芝メモリ売却の優先交渉先「日米韓連合」の中心的存在である産業革新機構が、JDI誕生を主導したからである。

 日経は、「2000億円を投じて日本メーカーの大同団結を実現することで、韓国勢などに押され気味の電機市場で優位を取り戻す『日の丸再編』のモデルにする考えだった」が、「JDIの軌跡は、官製再編の限界を浮き彫りにするものだ」と評し、今回の場合も同様の結果になる恐れがあるという指摘である。

 確かに一理あり、同紙が挙げている幾つかの教訓を、今後に生かすべきであろう。

 今回の東芝の決定を、「日本勢主導による買収は、最先端技術の海外流出を防ぐ意味を持つ」との視点から評価したのは読売(22日付社説)である。

 読売は「製造業の国際競争力を維持し、経済成長を実現する観点からも国益に適(かな)う」と強調し、「日米韓連合による経営が軌道に乗れば、国内の雇用も維持できよう。その意義は小さくない」というわけである。同感である。

 同紙は、先の日経の懸念と同様に、「政府の過度な関与は、意思決定を遅らせるとの指摘もある」として、「民間の知恵を引き出す舵(かじ)取りが求められよう」と指摘したが、これもまた日経と同様、教訓とすべきである。

◆「見切り発車」を懸念

 東芝の決定を評価した読売だが、手放しで拍手喝采しているわけでない。同紙が「気がかり」としているのは、メモリー事業で協業する米ウエスタンデジタル(WD)が売却に反対している点で、「手続きがスムーズに進むかどうかは不透明な面がある」(同紙)からである。

 WDは、他社への売却差し止めを国際仲裁裁判所に申し立て、米カリフォルニア州の裁判所にも提訴している。裁判でWDの主張が認められ、売却が頓挫すれば、東芝の再建策は宙に浮く。東芝は有価証券報告書の提出の遅れから、8月1日付で東証2部への降格が決まったばかりだが、そうなれば、2部降格どころか、2018年3月期決算でも債務超過を解消できず、上場廃止になる可能性もある。

 読売は、「対立を解消しないまま優先交渉先を決めたことは、危うい『見切り発車』ではなかったか」と懸念するのも、尤(もっと)もである。

 26日にWDが、競合相手の韓国SKハイニックスが日韓米連合に入ることを強く懸念する書簡を東芝に送付したことが判明したが、「経営陣の手腕が問われている」(同紙)ということである。

(床井明男)