新電力の廃炉費用負担を「筋違い」とする毎日に乏しい「公益」の視点
◆新電力の責務説く産
経済産業省が、原発の廃炉費用の負担について、電力自由化で新規参入した新電力にもその一部を求める案を示した。
これは同省の小委員会が、自由化が始まった電力市場の競争促進策について始めた議論の一つなのだが、これに対し毎日が、「『新電力に転嫁』は筋違い」と噛みついている。
同紙4日付社説は、「大手電力会社の負担を新電力に転嫁するもので、結局は電気料金に上乗せされる。自由化の前提である競争原理をゆがめかねない案だ」と反対論を展開。「消費者はこれまでも電気料金に上乗せされる形で負担してきた。二重取りは理屈に合わない」という理屈である。
毎日とは反対に、「新電力も負担」は妥当だ、としたのは産経(3日付「主張」)である。
産経は、原発を保有しているわけでもないのに、なぜ新電力が負担する必要があるのかとの反発が出ていることに対し、「そうした考え方は正確でない」と批判し、その理由を「新電力に切り替えた消費者も、自由化前には原発で発電した電気を使ってきたからだ」と述べる。その受益を考えれば、原発の廃炉費用を新電力を含めて広く分担するのは当然といえよう、というわけである。「新電力も電力市場の担い手としての責務を負うべきだ」とする同紙の考えには同感である。
◆長期的な視点の日経
日経(3日付社説)も、「すべての消費者が分担する仕組みを考えるべきではないか」との考えを示す。
日経の考えは、単に廃炉負担をどうするかという問題からでなく、社説見出しの通り、「原発と電力自由化が両立するには」という長期的な視点から出ている。
競争を促し、消費者の選択肢を広げる自由化は着実に育てていきたいが、「エネルギー問題は市場競争にまかせるだけでは解決できない問題があ」り、そのひとつが「原発との両立」(同紙)というわけである。
同紙も指摘するように、原発は地球環境問題やエネルギー安全保障への対処に必要な電源である。だからこそ、政府も2030年時点の電源構成のうち、20~22%を原発で確保する計画を掲げているわけである。
そのために、電力会社は建設に掛かった巨額の投資を、長い時間をかけて回収するのだが、それを支えてきたのがこれまでの電力の地域独占と、掛かった費用を電気料金に上乗せする総括原価方式だったのである。
しかし、今年4月から電力小売りが全面自由化され、来春にはガス小売りも自由化になる。地域独占は撤廃され、総括原価方式も自由化が定着したと政府が見なせば撤廃になる。それだけ、「競争にさらされる電力会社の収益は不透明さが増す」(日経)ということである。
電力会社が原発を維持・更新するための事業資金や、今回の焦点になっている廃炉費用をどう確保していくか。
毎日も指摘しているように、廃炉費用は大型の原発で1基800億円程度と見込まれ、電力会社はこの費用を電気料金に上乗せして消費者から集め積み立てているが、今後、さらに積み立てなければならない費用が1兆2000億円あるという。
使用済み燃料の再処理費用の一部は、新規事業者も使う送電線の利用料に上乗せし、すべての消費者が負担しているが、廃炉費用については現在、新規事業者から電気を買っている消費者は払っていない。
◆電力の卸市場を提案
それをどうするかということなのだが、日経の賛成は、「国民の十分な理解を得ることが不可欠」という条件付きである。さらに、賛成の産経も日経と同様、新規事業者にも負担を求めるのであれば、原発でつくる電気を卸電力市場を通じて、誰でも販売用に調達できるようにするなどの方策も考えるべきだと提案する。尤(もっと)もな意見である。
この問題ではこれ(4日)までに3紙が社説で論評を発表したが、毎日に公益の視点が乏しいの対し、日経の丁寧さが光った。
東京電力福島第一原発の廃炉費用をめぐる分担では、3紙とも既存原発とは別の整理が必要で、慎重な議論が必要との論調で一致している。
(床井明男)