税制改正の焦点「配偶者控除見直し」で各様の視点を提供する各紙

◆見直し支持する読売

 政府・与党が17年度税制改正に向けた議論を本格化させている。焦点は「配偶者控除」の見直しである。新聞ではこれまでに、朝日、読売など4紙が社説で論評を掲載し、各紙各様の見直しにおける視点を提供している。

 各紙の社説見出しを掲載順に並べると、9日付朝日「『再分配』見すえ改革を」、11日付読売「幅広い層が納得する見直しを」、13日付毎日「生活実態に合う改革を」、18日付日経「働き方と税・社会保障の一体改革を」である。

 まず、なぜ配偶者控除の見直しが税制改正の焦点なのか。読売は、アベノミクスが掲げる「働き方改革」を、税制面からも支える方策が問われている、とその目的を記す。

 配偶者控除は、専業主婦や低収入の配偶者がいる世帯の所得税を軽くする制度だが、パート労働の主婦らが控除の恩恵を受けるために、労働時間を少なく抑えるからである。いわゆる「年収103万円の壁」の問題である。

 さらに読売は、半世紀前の制度を社会の変化に沿って見直し、女性の社会進出を後押しすることは理解できる、と見直しを支持する。

 毎日も、同制度が始まった1961年当時は専業主婦世帯が一般的だったが、現在は夫婦共働き世帯が多数派になったこと、また労働力不足の改善に女性の就労を後押しする制度への転換は避けられないと理解を示す。

◆夫婦控除の課題指摘

 朝日はさらに、働き方の違いによって差が出るのは、公平・中立という税制の原則にもそぐわないと指摘する。

 では、どう見直すか。政府・与党内では現在、配偶者控除を廃止し、代わりに配偶者の働き方に関係なく、夫婦の所得が一定額以下の世帯を対象にした「夫婦控除」が検討されている。

 これなら、配偶者が収入を気にする必要がなく、共働き世帯の不公平感の解消にもつながる利点があるというわけなのだが、読売は「課題は多い」という。「控除対象者が増えて税収が大幅に減るのを防ぐには、高所得者を除く線引きが必要で、増税となる世帯からの反発も予想される」(読売)というわけである。

 また、読売、朝日、毎日の3紙は、事実婚や同性カップルなどを控除対象の「夫婦」に含めるかどうかといった問題点を指摘。朝日はさらに「貧困に苦しむ一人親世帯への配慮はいらないか」という点を挙げる。

 配偶者控除の見直しそのものについて、毎日は「働きたくても介護や育児のために専業主婦となっている人も多い。介護・育児休暇中の生活保障や、経済的に余裕のない専業主婦世帯に対する支援もセットで考えなくてはならない」と問題点を提起する。「雇用や社会保障の制度は生活実態に合わせた不断の改革が必要」(同紙)との視点である。読売の「長年定着した制度を見直すには、その影響に目配りした丁寧な議論が求められよう」とは尤(もっと)もな指摘である。

◆年金含めた改革強調

 日経は、掲載が最も遅かったが、それ以上に経済紙として一日の長ありの論評を大社説で丁寧に示す。

 労働力の担い手が減り、成長力を押し下げている現状で、「103万円の壁」によりサービス業などの現場で人手不足に拍車が掛かっている現状。現在の配偶者控除の仕組みを残したままだと、非正規の時給が上がってもすぐに年収が103万円に達し、これまで以上に就業を抑える恐れさえあること。

 以上は同紙が指摘する現制度の問題点だが、夫婦控除案については、財源に限りがあるため「一定の年収要件を課して、高所得者を適用対象から外すなどの対応はやむを得ない」と明確な姿勢を示す。

 同紙が最も強調するのは、見出しの通り、年金課税の見直し(社会保障制度改革)も含めて、働き方と一体で所得税の抜本改革に踏み切ることである。「いまや年金や医療などの社会保険料収入は国税収入を上回る。国民負担という点は社会保険料も税金も同じ」(同紙)だからである。

 具体的には、「パートなどの年収が130万円を超えると年金や医療の保険料負担が生じ、可処分所得が目減りしてしま」い、「仮に103万円の壁がなくなっても130万円の壁が残っていれば、就業が抑えられてしまう」(同紙)点が指摘されている。いずれにしても、「丁寧な議論」が必要なのは確かである。

(床井明男)