8月初の祝日「山の日」に、薀蓄を傾けた各紙看板コラムに読み堪え

◆日経除く各紙が社説

 平成26年の祝日法改正で、今年から祝日のなかった8月に初の祝日として11日と定められた「山の日」を初めて迎えた。山を対象とした祝日も世界で初めてとか。これで祝日も今年から年16日に増えたのである。

 日本は国土の4分の3を山地や丘陵が占める「山国」で、日本人は古くから海とともに山からも恵みを受け、山を崇め、山に親しみ、山とともに生きてきた。昨今は「山ガール」ブームが言われ、中高年だけでなく若い女性にも登山愛好者が増えている。狩猟や薪、炭焼き、山菜や茸採りなどの生活があり、山を聖地とする信仰や修験道の歴史があり、近年はスキーや山歩き、高山植物めぐり、森林浴などレジャーや健康、趣味などを楽しむ場として山と人との密接なつながりは続いている。

 そんな「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」(祝日法第2条)趣旨の「山の日」がこれまで無かったことの方がむしろ不思議なのかもしれない。

 第1回の「山の日」を迎えた11日は日経を除く各紙が、社説だけでなく看板コラムまでも、この祝日をテーマに論じた。小紙は社説で、登山家の今西錦司が山の「偉大さ」を強調したことなどに触れ「山の日は、われわれが山の偉大さとその尊い価値について思いを新たにする日」だと山そのものを論じた。一方、各紙は山や登山の魅力などを工夫を凝らして論じ、このところ増加している山岳遭難を憂慮し、安全に対する自覚を促す展開だったが、総じて平凡な印象だった。

◆祝日に1級と2級が

 これに対して看板コラムの方は、担当者それぞれが個性を発揮して山の日についてのエピソードをちりばめ、薀蓄を傾けたのは興味深く読み堪えがあった。

 朝日<天声人語>は「山の日」が生まれたきっかけの一つを「作曲家の船村徹さん(84)が出身地栃木の下野新聞に寄せたコラム。海の日が先行したことを挙げ『海があんのに山がねえー』と山の日を提唱した」からと紹介。8年前から山岳界や林業界から賛同が始まり、超党派の議員連盟(衛藤征士郎会長)が推進役に。紆余曲折を経て「11日で決着したのはよいが、改めて議連の記録を読むと『山の日を2級の祝日にしたくない』という発言が出てくる」ことに注目する。2級とは定日ではなく、〇月第〇月曜日などと定められた「祝賀感が乏しい祝日を永田町かいわいでは」そう「呼ぶらしい」と。

 代表例に「海の日」を挙げ、「山の日」は定日だが「日付に明確な根拠がなく、海の二の舞いにならないか今から心配だ」と結ぶ。祝日にも1級と2級があることを初めて教えられた次第である。

 それでかどうか「山の日」の記念行事には力が入り、多彩な行事が展開された。近代アルピニズム発祥の地である上高地(長野県松本市)で行われた第1回山の日全国大会は、記念式典に皇太子殿下御一家が出席される中で行われた。

◆記念曲が一挙4曲も

 さて<産經抄>が枕詞にしているのはダークダックスの「山男の歌」の誕生エピソードだが、山の歌で広く親しまれたものは出てこない。山に関わる歌では他に「山は白銀朝日を浴びて……」と口ずさむ「スキー」を思い出すぐらい。そこでこれも前述の船村氏が総合プロデュースして歌詞を公募して作られた「山の日」制定記念曲(CD)が記念行事で歌唱披露された。それも1曲ではない、一挙4曲もである。

 歌い手も北島三郎「山・美しき」、鳥羽一郎と津吹みゆのデュエット曲「四季の山」(以上、クラウンから)、加藤登紀子「山はふるさと」、走裕介「山が、笑ってら」(以上、コロムビアから)と豪華顔触れがそれぞれ歌う。「山の日」が1級祝日として人々の心に定着するように、どれか1曲でも当たってくれれば、との関係者の熱い思い入れが聞こえてきそうである。

 読売<編集手帳>は山に人生行路を重ねてしみじみと語る。「雪の山は人生の勾配に、どこか似ている◆そう言えば、判断に迷う『岐』路があり、『嵐』に立ち往生し、『崖』に足をすくませ、越して安堵の『峠』がある。山を部首にもつ漢字には浮世の旅路を思わせる字が多いようである」と。いつもながら<編集手帳>には教えられることが少なくない。

(堀本和博)