反改憲の争点化に頬かむりで「敗北」認めぬ朝日の参院選報道”総括”

◆今になって争点否定

 7月の参院選と都知事選ではいずれも野党・反改憲勢力が敗れた。ジャーリストの森健氏は毎日の7月28日付「月刊・時論フォーラム」で「野党以上に敗れたメディア」と嘆息しているが、当のメディアはどうだろうか。

 朝日は5日付「あすへの報道審議会」で参院選報道を“総括”している。同審議会は読者代表のパブリックエディターと朝日の編集幹部が同紙の記事や報道姿勢について意見交換するもので、その中でパブリックエディターのひとり、河野通和氏(新潮社「考える人」編集長)がこう疑問を呈している。

 「朝日新聞は、安倍首相が語らない『改憲』を問題にし、参院での『改憲勢力』が3分の2に達することへの警鐘を鳴らし続けた。野党共闘がスローガンに掲げた『3分の2阻止』とも重なるが、これに焦点を当てたのは有効だったか。55年体制を引きずったステレオタイプの対立の構図にしか見えず、改憲への国民の関心は高くなかった」

 これに対して佐古浩敏・編成局長補佐はこう答えている。

 「メディアが争点を設定するのは重要なことだとは思う。ただ、過去の選挙報道の反省から、メディアが一方的に争点を押し付けていると取られないように留意した」

 これには思わず、えーと声が出た。河野氏が言うように、あれだけ反改憲の争点化に血眼になっておきながら、今になって争点化しなかったとは? ゲストコメンテーターの佐藤卓己・京都大大学院教授も黙っておれなくなったと見え、「本当に改憲が争点とは考えなかったのか」と聞き返している。

◆指摘に聞く耳持たず

 これにも佐古氏は「改憲問題は政党間論争や有権者の関心ががっちりかみ合うという意味での『争点』ではなかった。そうであっても、極めて重要なテーマと考えて多角的に報じた」と、あくまでも争点化に白を切っている。

 佐藤氏は「朝日新聞の読者がそう受け止めたかというと疑問だ。政権は『改憲』では選挙に勝てないと思えば、意識的に出そうとはしない。だからこそメディアの役割が重要になる」と諫(いさ)めている。紙面にないが、佐藤氏のムッとした表情が見えてきそうだ。

 だが、これにも朝日は聞く耳持たず、だった。立松朗・政治部長は佐藤氏の発言を引き取り、こう言うのだ。

 「憲法改正は有権者の投票行動に結びつきにくいと考えた。『争点だ』と言うと、政権側が3分の2以上の議席を占めた時に『あなたは争点だと言った。改憲は民意だ』と主張することも可能になる。『この選挙結果は決して民意が改憲を支持したということではない』ということを前提に今後どう報じていくかを考えている」

 どうやらこれが本音らしい。改憲が民意とされないために朝日は争点化しなかったことにする。そう言っているわけだ。ならば、いっそ白紙の縮刷版でも出せばよい。

 立松氏に続いて根本清樹・論説主幹は「争点は必ずしも政権が掲げるものにとらわれる必要はないと考えているが、実際にはそれに支配されてしまうところがある。課題設定についての政権の力の強さを実感した」とし、「参院選の直前に消費増税再延期を出してきた」と、議論を消費税にすり替えてしまった。

 これに対して河野氏は「消費増税再延期の是非は、与野党とも増税先送りで一致したため、早い段階で争点から消えた」とくぎを刺し、「果たしてそれで良かったか」と議論を深めなかった報道姿勢に異を唱えた。

◆話すり替え反省なし

 これにも根本主幹は「増税再延期について社説は『首相はまたも逃げるのか』と批判した」と弁明している。だが、この社説は安倍首相の再延期発表直後の5月31日付だ。河野氏は参院選の争点として問うているのに、ここでも話をすり替えた。「またも逃げるのか」とは朝日のことだ。

 というわけで「野党以上に敗れたメディア」の筆頭たる朝日には何ら反省の弁がない。それどころか、敗れたこともなかったことにする。まるで新幹線事故で車両を埋めてしまった中国を思わせる。

 「あすへの報道審議会」は、かくもパブリック(大衆)から懸け離れた報道姿勢を浮き彫りにした。これでは朝日に明日があろうはずもない。

(増 記代司)