過剰診断の甲状腺がんを「異常に多い」と煽る報ステを特集する新潮
◆“扇動”に近い”主張”
シナリオもあり、打ち合わせもある、言ってみれば“なあなあ”のプロレス中継を生業としていたアナウンサーがニュース番組のキャスター席に座って、「お~っと、これは強烈なキックだー!」と中継すれば、視聴者はそのうち出来芝居と現実との区別がつかなくなり、何でもないことに「一大事だ!」と大騒ぎするようになるかもしれない。
公共の電波を使って報道することと、ショーとしてのプロレスを中継することとは全く違う。盛り上げたり、扇動したりすることは必要ない。事実を正確に伝えることに専念すべきなのだが、この点で、テレビ朝日の「報道ステーション」には常に疑問が投げ掛けられていた。週刊新潮(3月24日号)が「『甲状腺がん』増加を喧伝した『報道ステーション』の罪」を特集している。
同番組は福島第1原発事故から5年経(た)った3月11日、福島で甲状腺がんが異常に多くなっていると報じた。「福島県立医大の放射線医学県民健康管理センターが主として行なっている甲状腺検査の結果」で「18歳以下の若者166人に甲状腺がんもしくはがんの疑いがある」ことが明らかになったことを取り上げたのだ。
キャスターの古舘伊知郎氏(61)は「異常に多い」「原発事故と甲状腺がんとの因果関係がないとするのは甚だ疑問です」と強く関連付けて伝えた。だが、同誌は専門家の話を紹介して、古舘氏の“主張”が“扇動”に近いものであることを証明する。
◆“穿り出された”がん
まず甲状腺がんはそれほど深刻ながんではない。「ひたちなか総合病院放射線治療センターの三橋紀夫センター長」は、「非常に進行が穏やかな病気で、『潜在がん』の代表なんです。(略)極端なことを言えば、病状を呈することのない甲状腺がんは放っておいてもいいんです」と説明する。
つまり「本来発見すべきではないがん」なのだ。「しかるに、それを検査で、わざわざ見つけに行ってしまったのは過剰診療に他なら」ないと同誌はいう。「甲状腺がんの5年生存率はほぼ100%」(三橋氏)で、「韓国で2000年くらいから甲状腺がんが急増し、ここ20年で患者数が15倍にまで膨ら」んでいるものの、「甲状腺がんによる死亡率が韓国で上昇しているわけではない」という。つまり、「甲状腺がんを持つ人は決して珍しくない」のだ。
かといって、がんはがんなので、罹(かか)らないに越したことはない。もし甲状腺がんの原因が原発事故なら、対策を取るのは当然だが、福島県の県民健康調査検討委員会は、「甲状腺がん患者の増加は、放射線の影響とは考えにくい」との結論を出しており、普通は行わない検査によって、「本来発見すべきではない」がんを、いわば“穿(ほじく)り出して”しまった結果だとみている。この「増加」を古舘氏は「関係ないわけがない」と騒いでいるのである。
しかも古舘氏や報ステが敢(あ)えてなのか目を向けない事実がある。海草をよく食べる日本人は「甲状腺は常に安定なヨウ素で満たされており、放射性ヨウ素を取り込む余地がない」(東工大の松本義久准教授)こと、福島の子供たちの被曝量は「最大でも35㍉シーベルト程度」だが、「100㍉シーベルト以上被曝しない限り、甲状腺がんのリスクが高まることはありません」(東工大の澤田哲生助教)という2点だ。
◆正確性よりも先入観
古舘氏や報ステは科学的に正確に伝えようというよりも、先入観や特定の意図をもって主張しているにすぎない。「東工大の松本氏」は、そもそも「この報道が福島の人の幸せに繋がっているのか」「必要以上に不安」を煽(あお)っているのではないかと疑問を呈する。
さらに「東大病院放射線科の中川恵一准教授」は、「妄想を言ったり福島を利用することで、いかに現地の人々を傷つけているか考えてほしい」と批判する。
古舘氏は、「人間は偏っていない人なんていないんです。客観を装っても、『主観内客観』に過ぎないんです」と最初から、報道に主観を織り込んでいくと居直っていた。一部の視聴者にはそれが受けていた面もあるが、“幸せに繋がらず、人を傷つける”古舘氏の「主観」とは、どこへ向いているものなのだろうか。テレ朝首脳陣との“軋轢(あつれき)”で3月いっぱいで降板することが決まっている古舘氏だが、残りの期間でも「主観内客観」を振り回すのだろう。
(岩崎 哲)





