高浜原発差し止め、最高裁判示を無視した決定を批判する読、産
◆仮処分の後の悪影響
今年1~2月に再稼働した関西電力高浜原子力発電所3、4号機(福井県高浜町)に対して、福井県に隣接する滋賀県の住民29人が運転差し止めを求めた仮処分で、大津地裁(山本善彦裁判長)は9日に、関西電力に運転差し止めを命じる仮処分決定を出した。山本裁判長は「過酷事故対策などには危惧すべき点があるのに、原発の安全性の確保について関電は主張や証明を尽くしていない」と判断した。仮処分決定で運転中の原発が止まるのは初めてのことである。
決定は直ちに効力が生じるため、関電は10日から高浜3号機の運転停止作業に入り、停止させた(4号機は停止中)。その一方で関電は決定を不服として保全異義、決定の効力を止める執行停止をそれぞれ大津地裁に申し立てる。
高浜3、4号機は昨年2月に、福島原発事故を踏まえた原子力規制委員会の新基準に基づく再稼働の審査に合格した。しかし、福井地裁が同4月に、再稼働差し止めの仮処分を決定。同12月に、福井地裁の別の裁判長による保全異議審決定で差し止め決定を取り消した。これを受けて今年1月に3号機は再稼働し、営業運転に入っていた。
運転差し止めの悪影響は、早くも具体的に電気料金にはね返ってくる。「関電は高浜3、4号機が動けば営業利益を年1千億円押し上げると試算し、5月から電気料金を引き下げる計画だった」(日経3月10日)。この電気料金引き下げは見送りとなっただけでなく、関電の収益改善にも大きな打撃となるのが避けられないのである。
◆抑制的でない仮処分
福島原発事故のあと、日本のエネルギー政策は「原発依存度の低減」を図りつつ活用する方向で、重要エネルギー源の一つに位置づけてきた。これを大局的に支持する読売、産経、日経、小紙などは、安全性の確認された原発の再稼働に積極的立場を示してきたが、朝日、毎日などは「原発ゼロ」を掲げ、再稼働に消極的立場を取ってきた。
だから、今回の仮処分決定についても、読売、産経、日経、小紙の社論は「判例を逸脱した不合理な決定」(読売10日)、「常軌を逸した地裁判断だ」(産経同)などと決定を強い批判でこき下ろした。当然、朝日は「許されぬ安全神話の復活」(10日)、毎日「政府も重く受け止めよ」(同)と決定を高く評価しつつ政府批判を展開している。
4紙が仮処分決定をこき下ろすほど強く批判したのは、決定が原発の安全性をめぐって示された平成4(1992)年の四国電力伊方原発訴訟における最高裁判決を踏まえていないからである。最高裁は判決で「(原発の安全審査は)高度で最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」という見解を示した。原発の安全性判断は高度な専門性が必要だから、行政側の判断を尊重し司法の判断は抑制的に行うべきだとした判示は、その後の判決で踏襲されてきた。
大津地裁の決定を「裁判所自らが、原子力発電所の安全審査をするということなのか」と問いを突きつけた読売は「再稼働のポイントとなる地震規模の想定などについてまで、自ら妥当性を判断する姿勢は、明らかに判例の趣旨を逸脱している」と批判。「またも驚くべき司法の判断である。これでは日本のエネルギー・環境政策が崩壊してしまう」と驚愕する産経(主張・10日)は「高度に専門的な科学技術の集合体である原子力発電の理工学体系に対し、司法が理解しきったかのごとく判断するのは、大いに疑問である」と司法の逸脱に斬りこんだ。小紙(12日)も「明らかに判例の趣旨を逸脱しており、『司法の暴走』」だと批判した。
◆政権批判に傾く朝毎
この点では「過去の判例に縛られない司法判断があってもよい」と理解を示す日経(社説13日)も「地裁は『(福島原発)事故の原因究明が道半ばで(基準を定めた)規制委の姿勢に不安がある』としたが、規制の意味について認識不足ではないか」などと、決定には釈然としないとする疑問点を上げている。
一方、仮処分決定を評価する朝日、毎日には最高裁判示についての言及は皆無。判示が尊重を求めた「最新の科学的、専門技術的知識」も朝日にかかると「専門家をうまく使い、事故前のように仲間内で決めようとしているのか」という安倍政権批判に角度が付いてしまう。毎日も「原発回帰を進めようとする政府に再考を求める決定」だと持ち上げて政府批判をかぶせるのである。
(堀本和博)