中国海洋覇権の野望にエネルギー安全保障の危機を訴える東洋経済
◆実力行使に出た米国
フランスのテロ事件で世間の目がヨーロッパに向かっている中で、米国と中国が今、緊張関係にある。南シナ海・南沙(英語名・スプラトリー)諸島での中国のゴリ押しともいうべき軍事化拠点のための人工島開発に対して周辺国が反発を強め、自由主義国の盟主米国が中国に対してようやく実力行使に出たからである。10月27日に米海軍の駆逐艦が人工島周辺を航行。また11月18日には米国の戦略爆撃機B52が同諸島付近を飛行した。一方、中国側は米艦船をフリゲート艦で監視・追跡し、またB52に対しては中国の地上管制官が警告を発したという。
近年、中国は日本に対して東シナ海の尖閣諸島の領有権を主張し、南シナ海においては広範囲にわたって領海を主張している。併せて中国は2013年11月に尖閣諸島を含む防空識別圏を新たに設定するなど、これまでの国際ルールを無視する動きを活発化させている。
そうした中で、週刊東洋経済(11月14日号)は中国の海洋覇権をテーマに「緊迫 南シナ海!米中チキンゲームと日本の岐路」と題する緊急特集を組んだ。チキンゲームとはやや茶化し気味の表現だが、読んでみると、“極めて当然”の論調を打ち出している。少し前に、自民党のある女性議員―総裁選に出ようとしたらしいが、推薦人が少なくて断念した議員―が、「南沙諸島は日本に関係ない。むしろ日本は東アジアの国々と人やモノを中心とした経済交流を進める中で理解を深めるべきだ」と意味不明な見解を述べていたようだが、彼女には同誌同号の一読をお勧めしたくなる。
◆米中衝突で石油危機
ところで、同誌が述べている重要なポイントは、「(開戦に至るような)後戻りできなくなるまで危機を高めようとする意図は(今の段階で米中)双方ともに感じられない」(ジャーナリスト・富坂聰氏)としながらも、「日本が何をするべきかを考える際は、最悪のケースも想定しておくことが必要だ」と結論付けていることである。
それでは、同誌の考える最悪のケースとは何かといえば、米中が軍事衝突することで新オイルショックが再現するということである。さらに、「将来的に南シナ海から米軍が排除されるようなことがあれば、原油調達から企業の物流網に至るまでを日本は中国に制されることになる」と危機感を表す。
現在、日本の原油輸入の約9割が中東産で占められている。ペルシャ湾、ホルムズ海峡を出た原油のタンカーのうち8割以上がマラッカ海峡を通り、南シナ海を通過して日本に運ばれる。仮に、米中が軍事衝突するようなことになれば、南シナ海は危険水域に指定され、マラッカ海峡ルートのシーレーンは使えない。マラッカ海峡の通過が不可能となれば、さらに東側のロンボク海峡を通過し、フィリピンの太平洋側を航行して日本に運ばざるを得ない。当然、輸送コストなどが上乗せされ、また国際投機的な動きも生じて原油価格は上昇していくことになる。それは、電気料金やガソリン価格上昇にもつながっていく。
しかし、同誌は「マラッカ海峡やロンボク海峡を抜けるシーレーン防衛への意識があまりにも乏しい」(日本国際問題研究所の小谷哲男主任研究員)と警鐘を鳴らす。
◆危機感募らす専門家
軍事専門家の間では、中国が太平洋に対して、第1列島線(九州を起点に沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島までのライン)、第2列島線(伊豆諸島を起点に小笠原諸島、グアム、サイパン、パプアニューギニアまでのライン)を制圧しようとしていることは周知の事実。同誌で東京財団の小原凡司研究員が、「仮に中国が南シナ海を押さえると、米国は中東や中央アジアへ自由にアクセスできなくなる。中国が空母を建造しているのは、将来そうした地域に自国の影響力を行使したいという狙いがあるからではないか」と指摘し、その上で「中長期的にこうした意図が実現すれば、日本のエネルギー安全保障は根底から脅かされる」と危機感を募らす。
習近平主席には「中華民族の復興(中華思想による覇権国家)」という野望があるという。東洋経済の今回の特集は、経済誌でありながら、中国の野望の一端をのぞかせたという点で興味深い企画になっている。
(湯朝 肇)