原発ゼロ、節電頼みの現状に「電力危機忘れるな」と警鐘鳴らす産経
◆綱渡り状態の供給率
今年も節電の季節を迎えた。7月から9月末までの夏場の電力需要期である。政府は今年も自主的な節電を家庭や企業に呼び掛けるだけで、節電の数値目標は特に定めていない。乗り切れるとの算段をつけているのであろう。
だが、現状はそう甘くない。2011年の東京電力福島第一原発事故前に約3割の電力需要を賄っていた原子力が、13年9月以降はゼロ。国内に計43基ある原発が、再稼働の遅れもあり、全基停止していて、そのほとんどを、石油と液化天然ガス(LNG)を燃料とする火力発電がカバーし、目いっぱいの稼働を続けているのである。原子力より発電コストが割高な分、電気料金も相当程度上昇している。
こうした状況の中、新聞で改めて「原発ゼロの夏/電力危機は去っていない」と警鐘を鳴らしているのは、産経6月29日付「主張」で、要するに、「電力不足は解消されていない」ということである。
確かに、政府が数値目標を立てないのには、それなりの理由はある。東日本の供給率は、安定的な電力供給に最低限必要な3%を上回る8%を確保。電力各社は原発が停止する中で、火力発電のフル稼働や他社からの融通などで何とか安定供給を確保する計画である。
ただ、そうは言っても、原発比率の高かった関西電力や九州電力の予備率は、融通分を合わせてもぎりぎり3%。事故や故障による発電所停止が相次げば、電力供給に支障が出る恐れが十分考えられるのである。産経が指摘するように、無理のない範囲で上手な節電を心がけることに異存はないが、「節電頼みでは根本的な解決にならないことを、厳しく認識すべき」である。
現に関電では先月から、火力の姫路第2発電所(兵庫県)がトラブルで停止していて、他社からの融通を増やして何とか3%の予備率を維持するという綱渡り状態なのである。
◆能天気な東京社説
こうした余裕のない状況は、周知の通り、国内の全原発が13年9月から停止しているからで、これを補うために運転開始から40年以上もたっている老朽火力もフル稼働しているのが実態なのである。産経が「設備故障などによる計画外停止が増えていることにも留意したい」と指摘するのも尤(もっと)もである。
逆に言えば、原子力規制委の安全審査をクリアした原発は、速やかに再稼働できるよう、政府は積極的に関係自治体に働きかけていくべきである。
九州電力は、審査をパスした川内原発1号機(鹿児島県)の8月中旬の再稼働を目指しているが、実現すれば、同社の予備率は5・1%に改善する。産経が強調するように、「電力の安定供給を早急に確立する必要がある」ということである。
こうした状況を知ってか知らずか、相も変わらず「脱原発」を唱えるのが朝日、東京である。
電力会社の株主総会について論評した東京26日付社説は、総会では脱原発を求める株主の声が相次ぎ、再稼働ありきの政府、電力会社は「脱原発の世論直視を」(見出し)と訴えたが、電力供給については「節電意識は確実に定着し、今年の夏も原発ゼロで電力不足は避けられる見通し」の一文のみ。産経と比べるまでもなく、現実を無視したいかにも能天気な論評である。
「脱原発」の世論も、すべてが「即」脱原発というわけではない。世論を無視しているわけではなく、中長期的に脱原発を目指すにも、完全自由化を来年に控えて経営を安定化させる必要があるということである。また、家庭や産業界に安価で安定的な電力を供給するという使命もある。同紙の論評には、コスト面での評価も一切なく皮相的である。
◆規制審査認めぬ朝日
朝日28日付社説「先行きが心配です」も、電力会社の株主総会を扱ったもので、東京とほぼ同様である。
同紙は、「事故後、安全規制は強化され」たと認めながら、その規制をクリアした原発の再稼働を認めず、「事故の教訓を忘れたかのようなあからさまな原発回帰には、あきれるばかりだ」と批判するのである。世界一厳しいと言われる規制委の審査、つまり、これまでの科学的知見の積み重ねの結果をも認めない、同紙の姿勢には、それこそ、あきれるばかりである。
(床井明男)





