「イスラム国」の日本人人質事件を安倍政権批判に利用する「報ステ」

◆番組に外務省が抗議

 今月に入って、テレビ朝日「報道ステーション」の放送内容が話題になっている。

 3日には外務省が前日の内容に抗議と訂正を申し入れ、9日には放送倫理・番組向上機構(BPO)放送倫理検証委員会が昨年9月10日の九州電力川内原発の再稼働をめぐる報道を放送倫理違反だとする判断を下した。

 外務省が問題視した2日の放送は、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)によってジャーナリストの後藤健二さんが殺害されたとみられる映像がネットに流れたことを受け、政府の中東訪問や対応を問うたものだ。

 番組では「パリのテロ事件もあり、外務省は総理官邸に対して中東訪問自体を見直すよう進言していた。それでも総理官邸は『行く』と決断したという」との内容を紹介。また安倍晋三首相が中東訪問の際に、人道支援のために2億㌦出すと約束したことについて、「外務省幹部によると、この内容についても、総理官邸が主導して作成されたという」と報じた。

 これに対し、外務省は「あたかも外務省の意に反して、中東訪問が行われ、スピーチの当該部分が作成されたかのような報道」であるとし、「内容は事実と全く異なる」と外務報道官と中東局長名で抗議。

 さらに「社会的に影響力の大きい報道機関が、このように事実に反する報道を行うことは、国民に無用の誤解を与えるのみならず、テロリストを利することにもつながりかねないものであり、極めて遺憾」と強く批判した。

 テレビ朝日は「放送内容は取材に基づくものだ。今後も正確な取材と丁寧な報道に当たっていく」とコメントし、放送内容は間違いないとしている。

 ちなみに、外務省が外交に関する抗議を表明するとき、強い非難から弱い懸念まで8段階の表現がある。国内のテレビ番組に対する抗議は外交ではないので一概に同様と言えないが、報道ステーションに対する抗議には「極めて遺憾」という文言が入っており、外交の場合なら上から3番目に強いものになる。

 同番組がISの日本人人質事件を取り上げて安倍首相を批判するのは、この日の放送だけではない。

 この1カ月で何度かISの主張を一部肯定するかのような内容を紹介したり、人質事件をもって政府批判に繋(つな)げたりしたため、ネットを中心に疑問の声が上がっている。

◆ISに加勢する発言

 先月23日の放送では、元経済産業省官僚の古賀茂明氏がISについて「けっこう共鳴する人たちが多い」と述べ、ISを肯定するかのような発言をした。

 古賀氏はさらに、フランスの週刊紙襲撃事件後に流行した「私はシャルリー」をもじって「アイ・アム・ノット・アベ(私は安倍ではない)」と強烈な安倍首相批判を展開した。「ISによる事件を利用して、安倍首相を批判したいだけ」との批判の声が上がるのも当然と言える。

 また先月27日の「イスラム国」特集では、キャスターの古舘伊知郎氏が「(ISは)いわゆる一過激派組織とは括(くく)れない」と述べ、テロ集団というよりインフラ整備にも力を入れ、国家として機能しているかのような印象を抱かせる番組作りになっていた。

 特集ではISがネット上に流したプロパガンダ映像を多く使って、歴史の流れを見るとISにも理解できる部分があるように報じ、「一方向から見るのではなく、柔軟に見なければ駄目」と主張した。

◆放送倫理を重く見よ

 欧米のメディアでは、ISがネットに流した動画を番組で使わないようにすることを検討している社もある。テロ組織のプロパガンダを使うことは、直接ではないにしろテロ行為に加担することに繋がりかねないという理由からだ。

 九州電力川内原発の再稼働をめぐる報道で放送倫理違反と認定されたことを受け、テレビ朝日の広報部は「今回の決定の内容を真摯(しんし)に受け止め、今後も正確で公平・公正な報道に努める」とのコメントを出している。

 まさか過激派組織の主張・プロパガンダもそのまま流すことが「公平・公正な報道」だというわけではないだろうが、報道ステーションの番組作りの根底には、日本人人質事件を政権批判に繋げたいとの思いが見え隠れする。

 だが、結果的に「テロリストを利する」(外務省)行為に繋がるものであるならば、そうした報道は考えものだ。

(岩城喜之)